神社

椿大神社は由緒ただしきグローバルな神社

関連キーワード

三重県鈴鹿市にある椿大神社は、天孫降臨で活躍した猿田彦大神と、天之鈿女命を祀る歴史も古い神社です。

実はこの古き伝統を誇る椿大神社は、アメリカ・カリフォルニア州にもあることはあまり知られていません。この秘密は天狗のような要望を持つ猿田彦大神と、人々を楽しませる能力に長けた天之鈿女命の両祭神に隠されているようです。

ファミリービジネスな椿大神社

椿大神社は三重県鈴鹿市にある神社。読み方が変わっていて、「つばき おおかみ やしろ」と呼びます。三重県内では「伊勢神宮」「二見興玉神社(ふたみおきたまじんじゃ)」に次いで参拝者数の多い神社で、かつては伊勢国の一宮だった由緒ある神社です。最寄り駅はJRか近鉄の「四日市(よっかいち)」から三重交通バスか、近鉄「平田」もしくはJR「加佐登(かさど)」から鈴鹿市C-BUSを利用して約40~60分。周囲を鈴鹿山の自然に囲まれた、静かな場所にあります。

椿大神社の主祭神は猿田彦大神(サルタヒコノオオカミ)です。相殿に瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)・栲幡千々姫命(タクハタチチヒメノミコト)と、他に天之鈿女命(アメノウズメノミコト)・木花咲耶姫命(コノハナサクヤビメノミコト)が配祀されています。瓊瓊杵尊は猿田彦大神が登場する天孫降臨で、地上に降りてきた神様。栲幡千々姫命はその母親で、木花咲耶姫命はその妻にあたる神様です。天之鈿女命は天孫降臨の際、瓊瓊杵尊に従って降りてきた神様で、天孫降臨に先駆けて地上で猿田彦大神と夫婦になったと言われている神様。椿大神社のご祭神たちは、皆血縁や主従の関係を持つ、いわばファミリービジネスの神社です。

猿田彦大神は天狗のルーツ

主祭神の猿田彦大神は瓊瓊杵尊や天之鈿女尊たち天津神に対して、もともとこの地上にいた国津神と呼ばれる神様です。地上を納めるべく高天原から降りることになった瓊瓊杵尊。高天原から見下ろすと「天の八街(やちまた)」と呼ばれる、四方へ道が伸びる分岐点に、光り輝いて天地を照らしている神様を見つけます。この光り輝く神様が、猿田彦大神。古事記では「猿田毘古神」、日本書紀では「猿田彦命」と書かれています。天孫降臨で道を先導したことから、「道の神」や「旅行の神」として祀られている神様です。

この猿田彦大神の最大の特徴はその容貌です。鼻の長さが約1.2メートル、背の丈が約2.1メートル、身長はなんと約12.6メートルもあるという巨漢で、目はまるでホオズキのように赤く輝いているという、非常に奇妙な風貌をしていると書かれています。「鼻が長くて、体が起きい」と聞くと、何か思い出しませんか?そう、天狗です。猿田彦大神は天狗のルーツではないかと言われている神様で、天孫降臨以前の日本の土着信仰と深く結びついていると言われています。

実際には天狗が現在のような姿で描写されるようになったのは、室町時代に入ってからのこと。それまでは猿田彦大神と天狗は全く別のものでした。日本書紀には天狗について言及がありますが、空をかける流れ星をさしてのこと。確かに千里をかける天狗は、流れ星の性質を持っていると言えそうです。天津神の道案内をした猿田彦大神も、道を知り尽くしている・行く先を示すといった点から、地上を駆け巡る天狗に通ずるところがあったのかもしれません。

さて、猿田彦大神自身はどんな神様なのでしょう。古事記でも日本書紀でも、名前には「猿」の文字が共通して使われていることから、猿とは何らかの関係がありあそうです。日本書紀では、猿は伊勢神宮の「遣わしめ」とされています。どうやら伊勢の辺りでは猿を神聖視する信仰があったようです。猿田彦大神はもともと、伊勢の海人が信仰した原始的な太陽神であったとする見方が強まっています。また、猿が日吉大神の使いとされることから、山の神との結びつきも考えられます。どちらの性格を持っていたとしても、農耕と深く結びついていた神様だったようです。

天之鈿女命は芸能の神様

天孫降臨で猿田彦大神と夫婦になったとされる天之鈿女命は、早い段階から神話に登場してくる神様の1人です。天照大神が天の岩戸に隠れて、世界が真っ暗闇になってしまったときに、肌も露わに踊り狂った姿で神々を笑わせた話が特に有名です。直接岩戸を開けて天照大神を外へ出したのはタジカラオですが、岩戸を開くきっかけを作ったという点で、天之鈿女命は世界を闇から救った一番の功労者と言っても過言ではないでしょう。

瓊瓊杵尊の天孫降臨に、天児屋命・太玉命・玉祖命・石凝姥命とともに五伴緒として天降りしました。これに先駆け猿田彦大神の正体を明かすため、先行して猿田彦大神と対峙しその真意を問いただしたのが天之鈿女命です。この時も「胸を露わにあざ笑いながら」降りて行ったと描写れていることから、天之鈿女命は古いシャーマニズムの姿を体現した神様で、神がかりして踊り狂う姿を描いていると考えられています。どうやら「相手の秘密を聞き出す」能力に長けていたようで、それが理由で猿田彦狼の元へ使わされたという説もあり、シャーマニズムの神がかりにも通じる能力のようです。

神がかりして踊る姿は、はたから見ると滑稽に見えることがありますが、神様を和ませるための神事が、現在の踊りや舞などの芸能につながっていると言われています。滑稽な踊り=人を楽しませることから、天之鈿女命はその芸能の神様として有名です。神事で舞を務める巫女の家系、猿女君の始祖でもあり、猿女は天孫降臨で猿田彦大神の名前を明かしたことから、瓊瓊杵尊より賜った名前と言われています。

天之鈿女命と猿田彦大神は、道祖神の原型になったとも言われています。村や町など集落へつながる道の入り口にある道祖神は、道行く人を守る以外に、集落へ病や災いなど邪気が入るのを防ぐ役割も果たす神様です。現在は道もアスファルトで舗装され、集落の境目もなくなってきているため、道祖神もわかりにくくなっていますが、ほぼ日本全国に祀られています。地方によって呼び名も様々で、「塞の神」「障の神」「幸の神」などと呼ばれていますが、どの呼び名でも旅人を導き、村や集落へ入り込む邪気を防ぐところは共通しています。山間部など集落の境目がまだはっきりしているところでは、その集落へ続く道端を注意して探せば、まだ見つけられる可能性が高いです。道端で道祖神を見つけたら、ぜひ手を合わせてください。

アメリカのカリフォルニアにもある椿大神社

椿大神社はなんとアメリカのカリフォルニア州にも神社を構えています。神道の普及を目的に、椿大神社の第96代宮司によって1986年に建立されました。祀られているのも猿田彦大神に天之鈿女命、天照大神と宇賀之魂神、そしてアメリカ国土国魂神の5柱の神さまです。日本の椿大神社とも引けをとりません。年中行事も日本と全く変わらない、本格的な神事や行事が行われており、アメリカ人の参拝客が多く訪れているようです。会館の完成によって、宿泊施設も整い、ますます信仰する人が増えている様子。文化だけでなく、信仰からも日本は注目されているようですね。

古くからある由緒正しい神社であり、アメリカに神社を設立して神道の普及を図る革新性も併せ持つ椿大神社。今でもご祭神の猿田彦大神が、新しい道を切り開いて、導いてくれているのかもしれません。国内だけにとどまらず、神道は世界へ向けて扉を開き始めました。神社経営の新しい形ともいえそうです。
  • Facebook
  • Twitter
  • hatena

    ▲ページトップ