伝統工芸

昔の技法が伝わっている豊橋筆・奈良筆・熊野筆・川尻筆

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最近では筆記用具というとボールペンやシャープペンシルなどが一般的ですが、これらは日本で使われだしてまだ数十年しか経っていません。
日本では古くから書道があり、筆記用具と言えば筆や硯でした。
そのため筆や硯のなかには伝統的工芸品として現在も昔の技法が伝わっているものがあります。
ここではそれらについて紹介していきたいと思います。

1、豊橋筆

豊橋筆は江戸時代の後期ごろに領主であった吉田藩主が生活の苦しい下級武士の内職として筆づくりを奨励したことが始まりとされています。
筆づくりには京都の筆職人を招いて藩が御用筆匠として武士たちに指導を行いました。
明治時代のはじめごろには芯巻筆を改良して現在の筆と同じような作り方をするようになり、これが豊橋筆の原型となっています。
豊橋筆の特徴は「水を使って練り混ぜる」ことで異なる性質と長さの毛を混ぜ合わせることができ、筆の滑らかさが格段に良くなっています。
1976年に伝統的工芸品に認定されました。
現在では一般書道用に多く使われており、その書き味の滑らかさと初心者でも使いやすいということが高く評価されている筆です。

産地組合:豊橋筆振興協同組合
住所:〒440-0838 愛知県豊橋市三ノ輪町5-13
電話:0532-61-8255
公式HP:http://www.pref.aichi.jp/sangyoshinko/densan/501.html

2、奈良筆

奈良筆の歴史は非常に古く、平安時代に遣唐使船で中国に渡った空海がそこで筆づくりを学び、それを日本に帰国した際に大和地方(現在の奈良県)で広めたことが始まりとされています。
原材料には羊、馬、鹿、狸、イタチ、テン、ウサギ、リスなど様々な動物の毛が使われ、作ろうとしている筆に応じて毛をより分けます。
その後、水に浸して筆の形を作り混ぜ合わせて芯を作り、上毛を巻いていきます。
こうして作られる奈良筆は「練り混ぜ」という技法が使われており、非常に高級品として知られています。

産地組合:奈良毛筆協同組合
住所:〒630-8016 奈良県奈良市南新町78-1 (株)あかしや内
電話:0742-33-1015
公式HP:http://sns.nara-craft.org/

3、熊野筆

もともと熊野は筆づくりが行われていたわけではありませんが、江戸時代の終わりごろに農業だけでは生活が苦しくなった農民たちが紀州(和歌山県)や大和(奈良県)に出稼ぎに行き、その際にそれぞれの地域で作られた筆や墨を仕入れて行商をすると同時に筆づくりの技法を学んだことが始まりとされています。
また、広島藩の御用筆司の元で筆づくりを学んだものが熊野に戻って、その技法を広めたことも熊野筆の発展に影響を与えました。
原材料には馬、鹿、狸、山羊、イタチなどの毛が使われます。
それらの毛を組み合わせて灰でもむことで油分を抜き、長さを揃えていきます。
毛を混ぜ合わせて芯を作り、芯の周りに毛を巻き付けて糸で締めて焼くことで穂首とします。
穂首を軸に付けて糊で固めて、最後に銘を入れれば完成です。
熊野筆はとにかく肌触りの良さが評価されています。
熊野町には他の生産地よりも多くの筆づくり職人「筆司」がおり、その数は1500人にも及びます。
その中で筆づくりの経験が12年以上で優れた技術と経験が認められた「伝統工芸士」は約20名ほどしかいません。
この熊野町では一般用の筆以外にも専門家から特別な注文の筆を受けることも多く、熊野筆に対する信頼の高さがうかがえます。

産地組合:熊野筆事業協同組合
住所:〒731-4214 広島県安芸郡熊野町中溝3-13-19
電話:082-854-0074
公式HP:http://www.kumanofude.or.jp/

4、川尻筆

江戸時代の終わりごろに菊谷三蔵という人物が有馬(兵庫県)から筆を仕入れてきて販売したことで、この地域に筆が印象付けられました。
そして菊谷三蔵は農閑期の副業、内職として筆づくりが優れていると広めていきます。
すると上野八重吉は筆づくりに成功します。
これが川尻筆の始まりとされています。
川尻筆は「練り混ぜ」という技法を使うために大量生産には向いていませんが、高度な技術を使って作られるために高品質でとにかくしなやかな筆になります。
そのためプロの書道家などに愛用されている筆です。

産地組合:川尻毛筆事業協同組合
住所:〒737-2603 広島県呉市川尻町西1-2-2-401
電話:0823-87-2395
公式HP:http://www.shokokai.or.jp/34/3442410506/index.htm

5、その他の書道道具

5-1 赤間硯

筆だけでなく伝統的工芸品には「硯」もあります。
なかでも「赤間硯」は美しくて丈夫な硯として人気となっています。
古くは鎌倉時代にすでに鶴岡八幡宮に奉納されていたという記録があります。
江戸時代には長州藩藩主である毛利氏の命令で赤間硯の原料となる石が採掘される山には一般人の入山は禁じられていました。
贈り物用に赤間硯を作る際には藩主の許可を得て採掘がされており、非常に高価なものであったことがわかります。
赤間硯の原材料となる赤間石は硬くて美しい模様がある石です。
墨を削る部分である「鋒鋩」がはっきりしているので墨への引っ掛かりも良く、鮮やかな黒に発色すると言われています。

産地組合:山口県赤間硯生産協同組合
住所:〒757-0214 山口県宇部市西万倉793 日枝様方
電話:0836-67-0641
公式HP:http://www.stellar.meon.ne.jp/~kusunokichoshokokai/nakama/stay/suzuri.htm

5-2 鈴鹿墨

平安時代ごろに鈴鹿の山で伐採した松を燃やして油煙を取り、それをニカワを使用して固めたのが鈴鹿墨の始まりとされています。
この地域の墨は発色が鮮やかでありながら深みがあり、長く全国的に愛用されてきました。
江戸時代には寺子屋が普及したことで民衆にも広がり、武士の間では墨に家紋を刻印して使用することで珍重されるようになっていきました。

産地組合:鈴鹿製墨協同組合
住所:〒510-0254 三重県鈴鹿市寺家5-5-15
電話:059-388-4053
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