ご先祖様の眠る菩提寺は自分のルーツが見つかる寺

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菩提寺はもともと氏寺と呼ばれていました。貴族や武家が一族のために建立、あるいは帰依していた寺院のことです。庶民の間にも菩提寺が広まったのは、江戸時代の身元保証の制度がきっかけでした。
あなたの菩提寺も日本のどこかに必ず見つかるはずです。

菩提寺はご先祖さまの霊が集まる寺院

よく聞く言葉なのによく知らない言葉ってありますよね。「菩提寺」と聞くと寺院に関係があることはなんとなくイメージできるけど、実際に説明するとなるとうまくできない人のが多いのではないでしょうか。漠然とご先祖さまに関係がありそうだということくらいしか、イメージの湧いてこない菩提寺ですが、一体どんな寺院のことを指して呼ぶのでしょう。

実際に菩提寺という名前の寺院も実は存在しています。岡山県や奈良県、青森県や滋賀県と場所がバラバラなことや、曹洞宗や天台宗、浄土宗や真言宗と、宗派も様々なことから、それぞれに関連性はないようです。ここでは菩提寺と称する特定の寺院ではなく、広い意味で使われる菩提寺について調べてみましょう。

菩提寺は代々のご先祖さまが眠っている寺院

「菩提寺」を辞書などで調べてみると、「先祖代々の墓や位牌を置き、菩提を弔う寺院」との説明。別の辞書では「一家一族が代々同じ宗旨に帰依し、壮麗や年忌法要などを執り行う寺院」と書かれています。どうやら私たちが菩提寺について思っていたイメージどおりでまちがいないようです。

古代や中世には、菩提寺の代わりに「氏寺」という言葉が使われていたようです。「氏」と明確に示されていることで、氏=一族のための寺院という意味が伝わってきます。古代では藤原氏にとっての興福寺や和気氏にとっての神護寺などが、中世には足利市の鑁阿寺などが氏寺として建立されてきました。中世気には武士団としての結束を強める役割も担っていたようです。

しかし、上述した氏寺は古代でも中世でも公家や武家など、特権階級に限られたもののように見受けられます。氏寺とされた多くの寺院が、氏寺とするために公家や武家によって建立されたもので、庶民が菩提寺として利用するために建てられたものではありません。

江戸時代に施行された寺請制度が菩提寺のはじまり

仏教寺院へお参りすること自体は、庶民の間にも古くから広まっていました。氏寺と呼ばれていた一族のための寺院も、江戸時代に入るころには菩提寺と呼ばれるのが一般的になります。庶民にも菩提寺が広まったのは、江戸時代の政策がきっかけです。

江戸幕府がキリシタンを取り締まるために施行した「寺請制度」で、庶民にも地域の寺院へ檀家として登録することが義務付けられます。取り締まりのために施行した制度なので、すべての市民が必ずどこかの寺院に登録されました。以来、個人も代々同じ寺院に籍を置くようになり、自然と個人にも菩提寺が形成されていったのです。

菩提寺と檀那寺はどう違う?

菩提寺と似たような意味を表す言葉に「檀那寺」という言葉があります。しかし辞書を当たってみると菩提寺とは多少性格が違う言葉のようです。本来の檀那寺は仏教用語のひとつで「個人が建てた個人のための寺院」のことを指していたようですが、日本では信徒が自分の所属する寺院を指して呼ぶ呼称のことを指しています。檀那寺に対して、所属する個人のことを指す「檀家」という言葉は馴染みがありますね。

菩提寺が先祖を含む一族のための寺院を指すのに対し、檀那寺は自分が檀家として所属する寺院を指す点が、菩提寺と檀那寺の違いと言えそうです。つまり「死者」がお世話になるのが菩提寺で、「生者」がお世話になるのが檀那寺ということです。

江戸時代の寺請制度と檀家制度

寺請制度が施行されていた当時では、檀那寺は自分の身元保証をする寺院であり、転居する際には転居先の寺院へ檀那寺を移すことも義務付けられ、一種の戸籍のような重要な役割を担っていました。檀那寺を持たないということは、身元不詳の人物とみなされ、場合によっては罪人に等しい扱いを受けることにもなりかねないほど、重要な制度でした。

個人をどこかの寺へ登録することで誕生したのが、檀那寺と檀家という檀家制度です。家族を檀家として登録し、葬儀などの一切を寺院へ任せる代わりに、檀家はお布施などを寺院に対して収めます。檀家になることが必須だった当時には、寺請制度を盾にお布施を強要するようなこともあったのかもしれません。檀那寺は檀家に対し強い影響力も持っていました。

菩提寺探しは自分のルーツをたどる旅

現在では寺請制度のように強制される方もなく、檀家になっている寺院を持たない人も多くなっていますが、檀家制度は今でも残っています。檀那寺は自分が居を構えた場所で、自らの意志で決めることもできますが、菩提寺は先祖代々が供養されている寺院ですから、個人の意思では菩提寺を変えることはできません。菩提寺と檀那寺が大きく異なるもうひとつの特徴です。

寺院には過去帳と呼ばれるものがあり、故人の戒名や本名、没年や享年などが詳細に記されています。過去帳をたどっていくと家系図が出来上がり、自分のルーツをたどっていくことができます。現在自分が住んでいる場所が、代々一族が住んでいる場所の場合、檀那寺がそのまま菩提寺となっていることがほとんどです。檀家になっている寺院に自分のルーツが記された過去帳が見つかるはずです。

現在住んでいる場所に親戚がほとんどいない場合は、もともと一族が住んでいた場所とは違うことがほとんどです。親戚が狭い地域に固まっている場合には、その近くに菩提寺があることが多く、親族の法要などが行われている寺院が、おそらく自分の菩提寺と考えられ、菩提寺を探すことは比較的難しくないと言えるでしょう。

親族がバラバラに散らばっている場合には、古い親族の記憶を辿ったり、ご先祖様の戒名から辿ったりして、菩提寺を探すことになります。同じ姓の集まっている場所を探したり、戸籍をたどっていったりすることも必要かもしれず、菩提寺を探すのは一筋縄ではいかないかもしれません。自分のルーツをたどって、菩提寺を探す旅。なんだか謎解きのようで面白そうですね。
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