景勝地

鉱山の繁栄と公害対策を今に伝える足尾銅山

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栃木県日光市にある足尾銅山はかつて「日本の鉱都」と呼ばれて栄えました。

400年もの歴史をもつこの鉱山は、現在は坑内の一部が観光のため解放されています。

トロッコに乗って全長700mの坑道に入ると、当時の苛酷であった鉱石採掘の様子が39体の人形で再現されているのを目の当たりにします。

坑道は横のみならず縦にも掘られており、高低差は1200mに及びます。

また、掘られた距離の総延長は1234kmに達していて、これはなんと東京から福岡までの距離に匹敵します。

坑道見学ルートには神社の鳥居が設置してあり、作業の無事を祈ったものであり、掘削作業がいかに苛酷で危険と隣り合わせだったことがわかります。

鉱石から銅が作られるまでの過程が展示されている銅資料館など3つの資料館もあり、日本の近代化を支えた足を銅山の歴史を学ぶことができます。

坑道を出るとまず目に入るのが、足尾銅山の銅で寛永通宝を作る過程を模型で展示してある資料館「鋳銭座」です。

館内には実物の一文銭一両分(4000枚で12kg)がバーベル状に展示しており、実際に持ち上げることができます。

ズシリとした重さを体験できるため、力試しをしてみたいかたにはオススメのスポットです。

足尾銅山へのアクセスはわたらせ渓谷線通洞駅から徒歩5分です。日光からのアクセスはJR日光駅または東武日光駅から市営バスで53分であり、入場料は大人820円、小・中学生は410円です。

栃木県を代表する観光地である日光東照宮からのアクセスも容易であるため、セットで訪れてみてはいかがでしょうか?

足尾銅山の歴史

足尾銅山の歴史は1610年に百姓二人が鉱床を発見したことから始まります。

幕府直轄の鉱山として本格的に採掘が進められるようになり、銅山は大いに栄えました。

足尾の町は「足尾千軒」と言われるほどにまで栄え、ピーク時には年間1200トンの銅を産出していました。

江戸時代に広く流通した通貨である寛永通宝も鋳造されたことがあります。足尾銅山の銅で造られた寛永通宝はすべて裏に「足」の字が刻まれており、「足字銭」と呼ばれていました。

また日光東照宮や江戸城の瓦の製造にも用いられ、オランダや中国にも輸出されました。

幕末から明治時代にかけては採掘料が極端に減少し、年間150トン程度まで落ち込みました。

ほぼ閉山状態になった足尾銅山ですが、1877年に古河市兵衛が足尾銅山の経営を始めることになりました。

そして1881年に有望鉱脈が発見されたのを皮切りに、次々と鉱脈が発見されていきました。

当時の明治政府は富国強兵政策をとっていたため、足尾銅山は急速な発展を遂げ、20世紀初頭には日本の銅産出量の40%を占めるまでに至りました。

しかしこの発展の背景には、足尾山地の樹木が坑木や燃料のために伐採され、鉱石を精錬する工場から排出する煙が大気汚染を引き起こしていました。

荒れ果てた山地を水源とする渡良瀬川は洪水を頻発し、精錬の際に生じた廃棄物は渡良瀬川に流されて環境汚染を引き起こしました。 これが歴史の教科書にも載っている足尾銅山鉱毒事件です。

「戦いの人」と呼ばれた田中正造が1891年、国会で発言したことで大きな問題となりました。

鉱毒予防工事はすでに行われていましたが、技術的に未熟であったことや鉱毒を防止するより銅の採掘を優先して行われたため鉱毒被害は収まりませんでした。

1973年には採掘を停止し、足尾銅山は観光地として現在に至ってます。

閉山後も精錬事業は行われていましたが、1989年にJR足尾線の貨物輸送が廃止されたことに伴って精錬事業も停止しました。

産業遺産としての足尾銅山

足尾の町は炭鉱に使われた施設や発電所、変電所など数多くの建物が残っています。

これらの施設は明治時代の近代化を象徴する貴重なものであるため、産業遺産として世界遺産への登録を目指す試みもされています。

日本にある世界遺産に登録されている産業遺産は群馬県の富岡製糸場や長崎県の端島炭鉱(通称軍艦島)などがありますが、足尾銅山は日本で初めて社会問題になった公害とその対策の歴史を持っており、鉱業発達とそれに伴う環境破壊への取り組みで評価された遺産は世界的に見ても極めて稀なケースです。

日光市では足尾銅山を世界文化遺産国内暫定一覧表へ追加記載するため、栃木県と共同で文化庁に提出しました。

足尾銅山の世界遺産登録への取り組みはまだ日が浅いですが、登録されたとするならば日光東照宮に代表される「日光の社寺」に続いて栃木県で二つ目の世界遺産となります。

世界遺産に登録されることで観光客が倍増し、地域が活性化するのでプラスの面もあれば、施設が荒らされる問題が発生するマイナスの面もあります。施設の保存が重要な課題となっています。

さらなる「公害」を生まないためにも、観光地としての整備を慎重に行うことが求められています。
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