仏像

神仏への誓いの書、起請文

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無宗教と言われる日本人ですが、それでも「誓い」をたてることはあります。主に結婚式で、それもキリスト教でですが、「誓います」と神様の前で宣言をし、結婚が成立というパターンです。
こうした「誓い」は、今でこそ形式と言った感がありますが、昔は真面目に神仏に対し、覚悟の上で誓いを立てていました。その時使用された古文書が起請文(きしょうもん)です。

またの名を「罰文」

起源は平安時代の末期頃になります。初期はあまり形式のようなものはありませんでしたが、中世頃には「敬白」で始まって「仍起請文如件」で締めるのがお定まりになりました。
起請文がどういうものかと言えば、神仏に一種の仲介役になっていただき、他者と契約を結ぶ為の誓約書と言った所です。「嘘偽りなく、この契約書通りにします。もし破ったら、ここに書かれている神様仏様に罰を受けても構いません」として、神仏の名前を綴るのです。
「罰を受ける」の部分がクロースアップされて「罰文」と呼ばれることもあります。何だか、たちの悪い芸能プロダクションとの契約書のようですが、昔はこうでもしないと約束を守らない人が多かったのでしょう。

おからすさんこと熊野牛王符のちょっと怖い「罰」

起請文の中でもとくに有名なのが、おからすさんこと熊野午王符です。
これは熊野三山と呼ばれる三つの神社(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)でもらえるお札になります。神社ではありますが、熊野権現は元々日本神道の神々は仏の仮の姿という本地垂迹の考えに成り立つものなので、仏教の要素が強いです。
そんな熊野三山の通称は「おからすさん」。こちらの御朱印にはカラスの衣装がある為、こう呼ばれます。
お札自体は護符として家事や盗難を防いでくれる有難いものですが、起請文として使うとなると話は違ってきます。
何せ、熊野権現に祀られる神々はスサノオノミコト、イザナギノミコトが妻に離縁を申し渡した際の唾から生まれた速玉之男神、イザナギ神の妻、イザナミノミコト(もしくは火の神)という有名な神々。
そんな熊野三山の札の裏に起請文を書くことで誓約が成立し、以降はカラスに見張られます。そして破るとカラスが三羽死に、破った人も血反吐を吐いて死んでしまうとのこと。
行きつく先は地獄です。神様に誓うと言うのはそれだけ覚悟のいることなのです。とはいえ、正しい心の持ち主は守って頂けるのでご安心を。

キリシタンに行われた南蛮誓詞

江戸時代ともなると、キリスト教の信仰が禁じられます。この時も起請文は用いられました。
「日本の神様仏様を信じます。キリスト教はもう信じません」との血判状付きのものです。「キリスト教への信仰を捨てる」との起請文の方が多く、これを南蛮誓詞と言います。

まとめ

神仏にお守りいただくには、只祈るだけではなく、時に何らかの誓いもいるということです。
科学の発達する今でもなお、占いは信じられていますし寺社仏閣への参拝者も後を絶ちません。お縋りしたいことがあるからです。
昔から人々は、起請文という形で祈るだけではない覚悟を表してきました。何かを賭ける勇気が、現代人にはあるでしょうか?

監修:えどのゆうき
日光山輪王寺の三仏堂、三十三間堂などであまたの仏像に圧倒、魅了されました。寺社仏閣は、最も身近な異界です。神仏神秘の世界が私を含め、人を惹きつけるのかもしれません。
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