伝統工芸

タンスが伝統的工芸品となるまで

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日本には伝統的工芸品と呼ばれるものがあります。単純に古くからあれば良いというものではなく、いくつかの条件があります。
そのうちの一つが「日常生活品であること」という条件です。その条件に合うものとして「タンス」があります。
ここではそんな「タンス」について紹介していきたいと思います。

1、タンスが伝統的工芸品となるまで

タンスは日本の住居には必ずといっていいほどあるものですが、その歴史は意外と浅く、江戸時代くらいに広まったものと考えられています。
それまでの一般庶民はタンスが必要になるほど衣服を持っておらず、必要性も薄かったのです。古来より衣服を多く持っていた貴族や武士などは木でできた箱や竹でできた行李と呼ばれるものに収納していました。それが江戸時代に入って民衆の生活が安定しだしてくるとさらに収納を増やす必要がでてきたのです。そして引き出しが多く、衣服を大量に収納できるタンスが生まれました。しかしできた当初はかなり高価なものであったためになかなかすべての民衆が買うことなどできず、一部の商人や豪農だけが所持していました。広く普及してくるのは江戸時代末期から明治時代にかけてのことと言われています。

そしてそれぞれの地域で特色のあるタンス作りが行われていったのです。現在もいくつかのタンスが伝統的工芸品として認定されています。

ちなみにタンスは漢字で「箪笥」と書きます。これは中国で円形の竹製収納具である「箪」、同じく四角形の竹製収納具である「笥」の漢字が引用されたものと考えられています。

2、それぞれの地域のタンス

1.越前箪笥
江戸時代の後期から作られている箪笥です。自然乾燥させたケヤキやキリといった木材を使用し、古来より伝わる越前指物の技術で釘やネジを使わずに組み立てていきます。そして表面に拭き漆、春慶塗、呂色塗りを施した後に鉄製の金具を取り付けるという重厚な雰囲気が漂うタンスとなっています。
伝統的工芸品として認定を受けたのが比較的新しく、これからの普及が期待されています。管理しているのは「越前指物組合」です。

2.仙台箪笥
江戸時代の後期ごろから仙台藩の地場産業として生産されたのがはじまりとされています。作られた当初は武士が羽織や裃、刀などを納めるのに使用していたために「野郎箪笥」と呼ばれていたこともあります。明治時代になると大々的に他地域に売り出すようになり、海外へも輸出されていました。
作り方はケヤキやクリなどの木材を使用して、木目が浮かび上がる「木城呂塗り」と呼ばれる漆塗りが施された上に鉄などの打ち出し飾り金具が取り付けられます。それぞれの工程で職人技が多く振るわれることから非常に美しく、存在感のあるタンスとして知られています。現在は「仙台箪笥協同組合」が管理をしており、マンションなどの洋室にも合うようなタンス作りを行っています。

3.加茂桐箪笥
明治時代の初期に新潟県加茂で大工が制作したのが始まりとされています。昭和の時代になって現在の一般的なタンスの原型と言われる「矢車塗装」が開発ました。この加茂では日本で使用されているタンスの約7割を製造しており、大規模なタンス製造が行われていることでも有名となっています。

4.春日部桐箪笥
かなり始まりは古く、江戸時代の初期に日光東照宮を建てるために集められた大工や職人たちが日光街道の重要な宿場町であった春日部に住み、このあたりでとれる桐を材料にして様々な日常品を作り出したのが始まりとされています。江戸時代の中頃には、ここで作られた桐箪笥があったという文献があることからもそれが裏付けられています。

5.名古屋桐箪笥
江戸時代初期に名古屋城を築城するために集まった大工や職人が城下町でタンスを作ったのが始まりだと言われています。この地域は木曽ヒノキや飛騨キリという素晴らしい材木の宝庫に近く、それらを利用することができたのが大きいとされています。特に飛騨キリを使用しての桐箪笥は大きく発展していきました。

6.泉州桐箪笥
大阪の南部泉州地方で付近にあるキハダやキリを使用して作られていきました。キリの柾目を利用した技法が高く評価され、江戸時代後期から明治時代ごろには数多くタンスが製造されました。表面の磨きや着色に高い評価を得ています。

7.紀州箪笥
江戸時代後期に落雷や火事などで和歌山城の天守が炎上消失した際に、タンスなどの収納家具が大量に必要になりました。この時期に数多くのタンスがここで作られたという記録が残されています。仕上げとして表面を天然の染料である矢車附子の煮汁で染めて、蝋で磨くという技法は紀州箪笥ならではとされています。

8.岩谷堂箪笥
岩谷堂は現在の岩手県奥州市に当たる地域で、江戸時代中期に木工家具を本格的に作り出したことから始まっています。ケヤキやキリを素材として漆塗りを施した上に手打手彫りの手の込んだ金具を取り付けています。この金具は鍵がかかるようになっており、箪笥が同時に金庫の役割も果たすという作りになっています。現在「岩谷堂箪笥生産協同組合」が管理をしています。

どの地域のタンスもそれぞれに特色があるものですが、近年和箪笥は利用者が減少傾向にあり、生産規模も縮小されています。
それぞれの伝統的工芸品のタンスも洋室に合うように改良されたり、本来の使用意図とは違ってキッチンに置いて食器を収納したりできるようなものも作られたりしています。
しかし、その根本は変わらず、伝統的工芸品であることには変わりはありません。
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