伝統工芸

約1000年前から愛されてきた『雛人形』

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日本には昔から伝わる「伝統的工芸品」と呼ばれるものがあります。
これは単純に古くからあるというだけでは認められるものではありません。「日常生活品であること」「主要部分が手づくりであること」「主原料が昔と同じであること」「伝統的な技法が変わっていないこと」「一定の地域で行われていること」という厳しい基準があります。それらをすべてクリアしたものだけが「伝統的工芸品」として認められるのです。

そしてそれらの伝統的工芸品の中に「雛人形」もあります。ここではそんな「雛人形」について説明していきたいと思います。

1、雛人形の由来

日本では人形はかなり昔から存在していました。その中でも「雛人形」に関しては平安時代の中頃、今から約1000年前に記された書物にその名前が出てきます。紫式部が著した「源氏物語」、清少納言の「枕草子」に「ひいな遊び」という言葉が出てくるのです。

これは紙でできた人形で「ままごと遊び」をするもので「雛遊び」と呼ばれました。「雛」という言葉は「大きいものを小さくする」「小さくてかわいい」という意味があり、「ひな」「ひいな」と呼ばれました。この「雛遊び」とそれ以前からあった「人形(ひとがた)」が結びついたものが「雛人形」なのです。

古来より日本では人形が人間がうける災厄を代わりに引き受けてくれるという「身代わり信仰」がありました。上巳の節句は髪などで作った人形に自分の災厄、穢れを引き受けてもらって、それを川や海に流すということを行っていました。これが「流しびな」につながったのです。

この「雛遊び」「人形」が結びつくと、どんどん人形作りの技術が進んで精巧な人形ができるようになってくると人形は川に流すものではなく飾るものになっていきます。

そして江戸時代ごろになると上巳の節句が正式に五節句の一つとして女の子の節句として認められると財力や権威のある武士や大商人たちは立派な人形を求めるようになり、豪華な雛人形をひな壇に飾るようになっていったのです。

そのころから家に女の子が生まれると、上巳の節句(桃の節句)に雛人形を飾ることが一般化してきました。女の子に降りかかる災厄を雛人形が変わりに引き受けてくれることで女の子の健康と成長を祈る風習として定着していったのです。

2、現在、伝統的工芸品として認められている人形

江戸木目込み人形(東京)、岩槻人形(埼玉県)、宮城伝統こけし、(宮城県)、江戸節句人形(東京都)、駿河雛具(静岡県)、駿河雛人形(静岡県)、京人形(京都府)、博多人形(福岡県)が伝統的工芸品として認められています。

それぞれに特徴があり、そのうちのいくつかで雛人形が見られます。
例えば「駿河雛人形」は静岡県で伝えられている伝統的工芸品です。現在は「駿河雛人形伝統工芸士会」が責任を持って伝統を受け継いでいます。この雛人形の特徴はそれぞれの工程に工芸士の特色が出るというところにあります。特に最初の「胴作り」「色彩選び」「腕折り」はその技を見れば誰が作ったかわかるというほど特徴的なものです。

数ある工芸士たちの中でもこの「腕折り」は最高難度とされています。まっすぐになっている腕を一度で折りたたむもので、当然やり直しができません。その瞬間に肩、腕の長さや衣装のしわ、人形全体のバランスを決めてしまうものです。工芸士のしべての技術がここに詰まっているとさえ言われています。それゆえこの「腕折り」を見れば誰の作品かわかるとまで言われるのです。

こういった高い技術を持った工芸士が精魂込めて作り上げているのが駿河雛人形なのです。

博多人形の雛人形もかなり特徴的です。博多人形は「土と語る」と言われています。それだけ土の温かみが込められているのです。そしてその博多人形の雛人形は「立雛」です。つまり立った状態の人形なのです。

これは人形の由来となった「人形(ひとがた)」が立った姿であったことからできたものです。そのため現在よく知られている座った形の人形とは趣が違っています。また、一般的なひな壇に「三人官女」や「五人囃子」など様々な人形が並ぶ雛人形とは違い、「殿様」「姫様」の二体の立雛だけとなっています。それだけに非常にシンプルで場所も取らないということが人気となっています。

江戸木目込み人形は江戸時代中期ごろに京都の上賀茂神社に仕えていた高橋忠重という名前の職人が作ったものが元となり、それを東京の人形師だった吉野栄吉が改良を加えて完成させたものです。

そして真多呂人形はその吉野栄吉の息子である喜代治の教えを受けた金林真多呂が木目込みの伝統工芸にさらに工夫を重ねて作り上げたものです。現在京都の上賀茂神社から木目込み人形の正統な伝承者として認められているのはこの「真多呂人形」だけです。

こうして確かな伝統技術を受け継いだ真多呂人形では非常にきらびやかで繊細な雛人形や五月人形が作られているのです。

3、まとめ

これらのように一口に伝統的工芸品の雛人形といってもそれぞれの地域のものによってかなり特色が違っています。
共通しているのは経済産業省制定の規定を満たして伝統的工芸品として認められているものには伝統的工芸品の証であるマークが入っているということです。このマークこそが100年以上続く日本古来の伝統的工芸品である証なのです。
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