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オオイヌノフグリ、虚子に「星」と詠われた雑草

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オオイヌフグリは、よく道端など至る所で見掛けるオオバコ科の越年草です。
3月から5月頃まで小さなコバルトブルーの花を次々に咲かせます。路傍の雑草と片付けるには可憐なオオイヌフグリの小花を、虚子は「星屑」と戦時下の句に詠みました。

今回は、オオイヌフグリというユニークな命名のエピソードや花言葉などをご紹介します。

オオイヌフグリの驚くべき生命力

オオイヌフグリは、秋に芽を出し、冬の間は地面の上に低く横に広がって、受粉に必要な虫たちが動き出す春を待ちます。草丈は10cm〜20cmで、葉や茎に短い毛が生えていて寒さから身を守っています。

花の色は瑠璃色と呼ばれるコバルトブルーで、直径5〜8mmほどになります。花は受粉を媒介してくれる虫が活動を始める気温15度以上の春に合わせて開花します。日が昇ると開き、夕方にはしぼみますが、翌日はまた開いて連続3日咲き続けます。

原産地はヨーロッパで、日本には明治時代の前半に入ってきました。帰化したオオイヌノフグリは強い繁殖力で日本中に広がり、在来種のイヌノフグリは駆逐されてしまい、今では環境省から絶滅危惧種に指定されています。

その旺盛な繁殖力の驚くべき点は、もしも虫が来ない場合に備え、自らメシベとオシベをくっ付けて自家受粉する術(すべ)を持っていることです。春の終わりには枯れ、種で夏を越します。

また、オオイヌノフグリの種には、アリが好む甘い物質「エライオソーム」がついているために、アリが運んで拡散することも驚きですね。スミレやカタクリなどと同様で、長い年月をかけてアリとの共生関係を築いている植物のひとつです。

花鳥諷詠から見たイヌノフグリ

「犬ふぐり星のまたたく如くなり」(高浜虚子)
植物学上は「イヌノフグリ」ですが、「いぬふぐり」という5文字で、俳諧では春の季題となります。また、虚子の「句日記」にはこの句に並んで、次の句がありました。

「水際まで咲き拡がりし犬ふぐり」(高浜虚子)
俳人が星に見立てたように、イヌノフグリは小さな青い星屑のような花ですが、寒さにも強く長い間次々と群生して咲き続けます。地面に這いつくばって粛々と芽吹く草、小さいのに頑強な生命力、この群青色の小花を、ひそかに好きな日本人は意外と多いかもしれません。

直訳すると「犬ふぐりの小花は水際になだれるように咲いていた。その光景は夜空に輝く星のまたたきのようでもあった」という意味になります。

小さな花の命が、星の瞬きに喩えられ、宇宙大の命として詠まれている壮大な句といえます。昭和19年3月に詠まれた句ということで、太平洋戦争末期に無残にも死んでいく日本人の無数の若い瞳の瞬きのようにも感じてしまいます。いかがですか。

名前の由来を紐解く!

オオイヌノフグリという花の名前の意味をご存知ですか。

日本にもともと生えていた在来種「イヌフグリ」によく似ていて、イヌフグリより大きい事から「イヌノフグリの大型」という意味で、オオイヌノフグリと名付けられました。犬のフグリとはつまり、犬の陰嚢とか睾丸です。実の形が犬の陰嚢に似ていることから、植物学者の牧野富太郎氏が名づけたそうです。

こちらがオオイヌノフグリの実のアップです。確かによく似ていますが、少し気の毒な名前ですよね。
ちなみに牧野博士は「日本の植物学の父」と呼ばれ、多くの植物の新種を発見して命名したことで知られています。「雑草という草はない」という言葉はあまりに有名です。

その後、呼びにくいために違う名前に改名しようとした方もいたようですが、牧野氏の命名のインパクトが強すぎたのか、どれも定着に至りませんでした。意味を知った以上、名前が呼びにくいと言う方の為に、別名をご紹介しましょう。
瑠璃唐草(るりからくさ)、天人唐草(てんにんからくさ)です。
女性でもサラリと口に出せそうな別名を、という忖度から、「キャッツアイ」というのもあります。小さな青い瞳がのぞいているように見える事から「星の瞳」という別名もあります。麗らかな春の陽だまりでキャッツアイの青い瞳と目を合わせてみるのは素敵ですね。いろいろな別名を試みてはいるものの、実はこちらもあまり浸透していません。

花言葉

花言葉は、「忠実」「信頼」「神聖」「清らか」です。

オオイヌノフグリはオオバコ科クワガタソウ属の野草です。学名・英名ともに「Veronica」と呼ばれることから、聖書に登場する聖女ヴェロニカと同じ名前なので、彼女にちなんで、「信頼」「忠実」「清らか」という花言葉を持つようになりました。

ヴェロニカはエルサレムの敬虔なキリスト教信者で、十字架を背負いゴルゴタの丘へ上るキリストを憐れみ、額の汗を拭くよう自身の身につけていたヴェールを差し出したと言われています。そのとき奇跡が起こったことから「神聖」という花言葉が付いています。

まとめ

いかがでしたか。今回はオオイヌノフグリをご紹介しました。雑草と呼ばれ、庭の花壇に生えていると無残にも引き抜かれてしまうオオイヌノフグリですが、どんなに抜いてもまた生えてくる、その旺盛な生命力には神秘的なものを感じてしまいませんか。

今回の記事のようにユニークな花名の由来や花言葉などを知ると、今後どこかの道ばたで見つけたときの印象もぐっと変わって見えますよ。つぶらなオオイヌフグリの青い瞳にそっと近づいてみたくなるかもしれませんね。

ペンネーム:Yoshidanz
ファームステイしたのをきっかけに農業生活にはまる。イギリスのオーガニックガーデニングを通信教育で勉強しながら、コンポースト造りと家庭菜園に挑戦。現在はニュージーランドの海沿いの丘陵地に土地を購入、ポタジェで有機野菜作りに励んでいる。

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