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悠久の歴史をもつ岩手県の伝統工芸 〜南部鉄器・岩谷堂箪笥・秀衡塗〜

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岩手県には長い歴史を持つ様々な伝統工芸があります。
全国的に有名な南部鉄器やコアなファンがいる岩谷堂箪笥などは岩手県を訪れた際にはぜひ見ておきたいものです。
ここではそれら岩手県の伝統工芸の品々について紹介していきたいと思います。

1.南部鉄器

全国的に知名度の高い南部鉄器ですが、実は「水沢南部鉄器」と「盛岡南部鉄器」の二つに大別され、それぞれが明確な特徴を持っています。
水沢南部鉄器は奥州藤原氏の藤原清衡が近江から鋳物師を招いて始めたものが少しずつ南下して広まり伝わったものとされています。
この地域では北上山地の砂鉄や木炭、砂、粘土などの鋳物に使用する良質な材料が採れたことから鋳物が栄えていきました。
後に奥州藤原氏が本拠地を平泉に移すと、鋳物師たちも平泉方面へと移っていき、この地で定着します。
江戸時代には領主である仙台藩の伊達氏による庇護を受けて鉄釜や鉄鍋、仏具などを生産していました。
それに対して盛岡の南部鉄器は盛岡藩主である南部氏の庇護を受けて栄えたもので、「有坂家」「鈴木家」「藤田家」「釜師小泉家」の4つが鋳物の仕事を行っていました。
これらの代表的な家が中心となり、盛岡の南部鉄器は江戸時代を通過していきます。
明治時代には交通網の発達によってさらに広がりを見せた南部鉄器ですが、昭和の戦争期に入ると軍需産業以外の鋳物の製造が禁止されたこともあり、終戦後にはアルミニウムやプラスチックが増加する中で衰退していきます。
しかし、平成から令和の時代にかけては茶道具や調理器具としての人気が高まっており、そのデザインと性能から鉄瓶は欧米に輸出されるまでになりました。

2.岩谷堂箪笥

岩谷堂箪笥は奥州藤原氏の藤原清衡が地域の産業奨励を行っていた時期に始まったとされています。
その後、江戸時代の天明期間(1780年代)に岩谷堂城主である伊達村将(岩城村将)が家臣の三品茂左右衛門に車付きの箪笥を作らせ、文政期間(1820年代)には徳兵衛という鍛冶職人が箪笥に使用する金具部分の彫金金具を考案しました。
この金具が岩谷堂箪笥の最大の特徴とされる部材です。
誕生した当初は桐の模様が多かったようですが、次第に鳥、虎、花、竹などの様々なデザインを施したものが使用されるようになっていきました。
岩谷堂箪笥は1982年に伝統的工芸品に認定されています。

・金具
岩谷堂箪笥の最大の特徴とされている金具は「手打彫り」で作られています。
その手法は銅板や鉄板に下絵を貼り、板の裏から鏨を叩いて図柄を刻むというもので、一棹の箪笥につき60〜100もの飾り金具が使われ、岩谷堂箪笥のデザイン性を高めています。

・箪笥の材料
岩谷堂箪笥には「欅、桐、栗、杉」などの木材が材料として使用されています。
欅を切り出して数年間寝かせ、製材した後に野積みして風雨に当ててから乾燥させて箪笥に使用します。
箪笥の内部には桐が使われることが多く、その耐久性やデザイン性には定評があります。

・漆塗り
岩手県は良質な漆の産地ということもあって岩谷堂箪笥には漆塗装が施されています。
これによって見た目が美しくなるだけでなく、耐久性が向上するという効果ももたらされています。
そのため、岩谷堂箪笥は丁寧に使用していれば、数百年間も劣化せずに使い続けることができます。
「美しさ」と「耐久性」を兼ね備えているのが岩谷堂箪笥なのです。

3.秀衡塗

秀衡塗の始まりには2つの説があります。
古い説は奈良時代、この地域を治めていた安倍氏によって奥州市衣川増沢地区で仏具や武具などの漆製品の製造が行われていたとされたというものです。
もう1つの説は奥州藤原氏3代目の藤原秀衡が地域の産業奨励のために京から職人を招いて、この地域の特産である漆、金を使って椀などの器を作らせたのが始まりとするものです。
そのため秀衡塗のルーツとなったのは「秀衡椀」であるとされています。
この椀は大ぶりで特徴的な文様があり、上部には雲形を描いて金箔を貼っています。

ただ、秀衡椀はあまりにも高級品だったため、当時は一般的に広く普及することがなく、それほど知れ渡るということもありませんでした。
1871年にはこの地域の漆を使って大規模に漆器産業を起こすため、川連漆器職人であった沓沢岩松を秋田県から招いて「増沢塗」が完成します。
秀衡塗はこの増沢塗職人たちが秀衡椀をその名で復元したことによって、広く知られるようになっていったのです。

秀衡塗には非常に丈夫な「本堅地」と呼ばれる下地が使われており、その耐久性も特徴となっています。
作成工程は、「木地」「塗り」「加飾」という3つの工程で成り立っています。
まず材料を椀の形に削っていきますが、急激に削ったり乾燥させたりすると割れたり変形するため、少しずつ乾燥させながら削っていきます。
次に漆を木地に刷り込むようにしながら塗っていきます。
こうして下地が完成したら下塗り、中塗り、上塗りと三段階に分けて漆を塗ります。
一度塗る度にしっかりと乾燥させます。
上塗りが終わったら和紙に書いた模様を転写して、その絵に合わせて雲形や花、果実などを描きます。
この模様は「秀衡紋様」といって秀衡塗の特徴でもあります。
このような工程で秀衡塗は完成します。
その美しさはまさに奥州藤原氏の最盛期を思わせる仕上がりとなっており、優雅さと強さを兼ね備えていると言えます。
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