世界史

人間が動物の子孫だって?ホモサピエンスとダーウィン

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「人間とチンパンジーの祖先はおなじである。」
現代人の基礎知識のひとつとしておなじみのこのフレーズですが、ほんの200~300年前までは、人間の存在どころか神まで侮辱する、とんでもない妄想とされていました。

大地に住まう植物や動物を育み導くために、神の創造物として誕生したのが人間であり、人間と動物との間には生物のルーツからして違うというのが、人間社会の通念だったからです。

1856年にドイツの北西部にあるデュッセルドルフの採石場にて、古びた人間の骨が発見されました。ネアンデル渓谷にあるその採石場で発見されたその骨を鑑定した結果、どうやらこの骨は現代人とおなじ種ではない、進化の過程で滅んでいった人類の祖であり、その系統はサルに繋がっているのではないかという研究結果が出たのです。

「ネアンデルタール人(ネアンデル渓谷の人)」と名付けられたその人類の祖の化石が発見された3年後、人間の歴史を振り返る上で特筆すべき影響を与えることとなった世界的ベストセラー『種の起源』が1859年に出版されました。

「人間は神によって特別に作られたものなどではなく、他の地球上の生物と同じく進化の過程を経て現在に残っている動物の一種にすぎない。」
ネアンデルタール人という確たる証拠が発見されていた時代にも関わらず、人々は未だに「人類とサルとの違いはわずかでしかない」というダーウィンの言葉に怒りすら覚え、出版から12年後の1871年の『ホーネット』誌に体がチンパンジーであるダーウィンの風刺画が掲載されるほどの抵抗を続けていたのです。

最古のホモサピエンスの化石が見つかったのは1967年でした。エチオピア南部のオモ渓谷で発見されたふたつの頭蓋骨は現代人のそれとよく似ていて、とても今からおよそ19万5000年前の骨とは思えないほどでした。

ダーウィンの進化論でみえてきた、動物と人間の境

ダーウィンの発表した『種の起源』は、実は発表を20年も遅らせ、その間に繰り返し内容を推敲したものでした。発表する前から、その本に書かれている研究結果によってどれほどの議論が噴出し、過去の常識が打ち壊され、既存の支配階級から強い抵抗を受けるか分かっていたからです。

「人間が神の創造物ではない」という宗教的な問題だけではなく、人間の生理的な嫌悪感にも触れることになりかねません。

「人間はホモサピエンスという動物の種の進化形態のひとつであり、その痕跡が体のあらゆるところに刻まれている」という指摘がなお受け付けられない人も、私たちの近くにいるのではないでしょうか。

ホモサピエンスである私たちが、他の動物とはっきりと「違う」と言い切れる根拠は、肉体にではなく、むしろ心とされる知性の部分にあるのかもしれません。

ホモサピエンスが生物環境を変化させる凄い力

最古のホモサピエンスの化石がエチオピアで見つかったことからもわかるように、ホモサピエンスの故郷はアフリカであることが、近年の遺伝子分析によって特定されました。
このアフリカに住む祖先が、おそらく7万年~5万年前にアフリカを出発してアラビア半島を過ぎ、何千年もかけてゆっくりと世界中に旅をし、世界中にいる数千の民族の祖としてその地に定着していったそうです。ホモサピエンス種の分化も明らかとなり、アフリカ人(コイサン語族)、ヨーロッパ人(コーカソイド)、中国人や日本人やアメリカ先住民など(モンゴロイド)、アボリジニの4つなのですが、この4つの民族の中にあるアボリジニの現状を思うと、ダーウィンの『種の起源』を思い出さずにはいられません。

ホモサピエンスの特性として、自分たちが安心して生存できる環境を作るためには、集団を作って他の生物を徹底的に駆逐する行動をとるというものがあります。

ホモサピエンスたちは、自分たちの住む地域の生態系を根こそぎ変える傾向があります。およそ4万年前にオーストラリアに渡ったホモサピエンスは、みるみるうちにその地にいた大型動物を刈り尽くし、また約1万4000年前にアメリカ大陸に渡ったホモサピエンスも同様の行動を取りました。

博物館に化石となって展示されている大型動物は、もしかしたらホモサピエンスに出会わなければ、現在も生き続けていたのかもしれません。

大航海時代にヨーロッパ人が世界各地を旅して出会った新大陸に住む先住民たちの国に対し、どれほど過酷な滅ぼし方をしたのか、現代人は知っています。

ホモサピエンスの心はどこからくる?

人間がつい最近まで常識として持っていた「人類は神が創った特別な生物であり、他の下等生物の生殺与奪の全権を握っている」という大きな誤解のだめに、地球環境はいま取り返しのつかないほど荒廃しています。

ホモサピエンスという種が生き残るために、他の種は今この時も絶滅しつつあり、自然環境が独善的に作り変えられています。

それがホモサピエンスという種が進化の過程で得た生存するための武器であるにせよ、私たちには大きな頭脳と記憶が備わっていることを忘れてはいけません。考えることで生まれる心の声もまた、ホモサピエンスの先祖が現代の私たちに託した能力のひとつでもあるのです。
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