仏像

仏教界のアイドル阿修羅の今昔

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どんな業界にも人気の存在はつきものです。そうした存在を「アイドル」と呼びますが、元は英語で崇拝対象などを意味します。
仏教における崇拝対象はお釈迦様に代表される神仏ですが、現代の意味でのアイドル的な仏は阿修羅でしょう。

インド時代の名はアスラ

大体の阿修羅像は武装をしているか筋肉質でコワモテです。武器を持っていることもあります。「落ち着いて話し合おう!」と言いたくなりますが、護法神として仏教や信者を守っているのでご安心ください。
そんな阿修羅のインド時代の名前はアスラ。個人名ではなく種族名でした。アスラという神の種族です。
どちらかというと悪役でした。これは移ろいやすい人間の気持ちのせいです。インドの経典『リグ・ヴェーダ』では呪術を使うまじない師のような性格で、積極的に呪い殺すなどの所業はしませんでした。経典での人気が下がったので悪役にされたのが実情となります。
ちなみにアスラという名前ですが、否定を意味する「ア」と神、もしくは酒を意味する「スラ」の合体版です。つまり神とされていますが「神ではない」と訳されます。悪役時代の名残と見ていいでしょう。お酒の方は禁酒神という意味です。

海水が元で禁酒神に

禁酒神になったのにはいきさつがありました。寄せては返す大海の味を見て、「しょっぱいな」と妙なことを気にしだしました。
花をはじめあらゆるものを混ぜ込み「海の味を変えよう」計画を開始。怪しい科学者のようです。しかしいくらやっても頑固なしょっぱさは変わらず、遂に怒り出しました。「何で味変わらんの!そっちがその気なら、ワシはもう酒を飲まないからね!!」海がしょっぱいというだけでお酒を断ったのが名前の由来の一つとされます。

今でも続く?帝釈天との確執

修羅車というものがあります。これには阿修羅が戦闘神となったきっかけにして最大の敵、帝釈天との確執が関わっていました。
帝釈天が阿修羅の娘をさらったのが発端となっています。これは完全に帝釈天が悪いのですが、何故か阿修羅が悪者のような立ち位置になっています。仏教では阿修羅を正義の神とする向きがありますが、戦っているうちにその戦いの理由も忘れてしまうしまいます。「勝負しろや帝釈天!」と哀れを誘いますが、何度やっても闘いに勝てない阿修羅を救ったのがお釈迦様、というわけです。今では正義の神としての務めを思い出し、仏法を守っています。
時がたち、人間界で帝釈天との確執を思い起こさせるようなものが出ました。先に述べた修羅車です。これは一種の大型そりで、石材を運ぶ為に作られました。大石は「たいしゃく」と読めるので、「たいしゃく、つまり帝釈天と言えば阿修羅」という発想でこの名前が付いたのです。

実在の楽器を越えた阿修羅琴で音楽活動

お釈迦様に救われて仏教に入った阿修羅ですが、大概の像が「やったるぜ!」と威嚇の表情。
頼もしい半面子供に泣かれそうな面構えではあります。そんな阿修羅には意外な特技がありました。阿修羅が所属する八部衆は、大部分がインド時代に音楽活動をしていました。仲間の影響か、「ちょっとやってみようかなあ」と琴を始めます。意外と繊細な楽器を選んだ物です。エレキギターとかドラムの方が似合いそうですが、六本の腕でお琴を奏でるのも中々に優雅かもしれません。とはいえ、琴を弾いている像はナシ。そもそも阿修羅の琴、通称阿修羅琴は徳の力で触らずに弾けると言う驚異の楽器でした。
実際触れずとも音が鳴るテルミンという楽器はありますが、これとて手をかざしたりそれなりの「演奏」方法があります。しかし阿修羅琴は触るどころか離れていても音が鳴るのです。「聴きたいの?じゃあ、ハイ」とばかりに演奏可能。阿修羅は驚愕のミュージシャンでもありました。

阿修羅像の手の意味は?

阿修羅像と言えば有名なのが興福寺のものですね。ほっそりとしていて愁いを帯びた美少年顔に心揺さぶられる方も多いことでしょう。
六本の腕も細いが為、空間にぬっと突き出すようで独特の存在感があります。興福寺に限らず、この手の形には意味がありました。まず合掌。これは一組目の腕です。二組目の腕では片手に太陽、もう片方の手に月を乗せています。三組目の手は右手に矢、左手に弓という組み合わせです。
興福寺の物は何も持っていませんが、実際には何かを支えるような手は月と太陽を掲げ、何を表しているのか分からない手は、弓と矢を持っていたのですね。

まとめ

悪役にされたり妙なことを気にしたりの阿修羅ですが、根が真面目だからこその部分も多々あるようです。
真面目で一生懸命な阿修羅の人気が高いのもうなずけますね。

監修:えどのゆうき
日光山輪王寺の三仏堂、三十三間堂などであまたの仏像に圧倒、魅了されました。寺社仏閣は、最も身近な異界です。神仏神秘の世界が私を含め、人を惹きつけるのかもしれません。
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