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虚空蔵菩薩のご利益は智慧の力? 受験生に大人気の秘密とは

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国民的漫画『ドラえもん』に、『ハンディキャップ』という話があります。ヘルメットのような形をした道具で、これを被った人間の周囲にいる人物は、皆その人物と同じ能力になる、というもの。つまり、のび太が被れば、周囲の人物が皆のび太レベルになるわけです。散々イタズラをしたのび太ですが、自分以外の人にハンディキャップを被せることを思いつきます。その相手は秀才出木杉君。それまでとは違う、知的な思考が次々と湧いてくることに最初は喜びますが、自分の力ではないことを情けなく思い、勉強することを決意する、というオチ。智慧や知能というもの、生まれ持ったものだから変えようがない、と言う人はいますが、心がけ次第ではある程度の知能向上も可能なのではないでしょうか。菩薩は大概記憶力や智慧を授けてくれますが、なかでも虚空蔵菩薩は一風変わったところを持っています。

そもそも「虚空」とは

虚空。何だかこの言葉だけでヒュルル~、と冷たい風が吹き抜ける感じを覚える方もいるかも知れません。しかし、仏教において虚空とは何者にも邪魔されない、広大にして限りがないという意味です。サンスクリット名はアーカーシャガルバ。ガルバとは母胎を意味し、「蔵」と訳され今に至ります。アーカーシャが天空、宇宙などと訳されるわけです。それこそ宇宙規模の智慧、そして慈悲の心を持つという意味です。

記憶力と関わり深い

日本にその信仰がもたらされたのは奈良時代ですが、盛んになったのは平安時代。あまりに長い、数百年の下積み時代があったわけですが、広大無辺の宇宙の化身たる虚空蔵菩薩様にとっては一瞬とほぼ同じです。有名になったきっかけは、弘法大師空海のおかげ。若き日の空海が、ある修行僧から「この真言(呪文)を100万回唱えなさい。そうすれば、経典の意味も分かってくる」と勧められて実行。「求聞持法(ぐもんじほう)」と呼ばれるこの修行、山中もしくは寺院などの静かな場所で虚空蔵菩薩を思い描き、真言という呪文を100日間続けて、先の僧侶の言った通り合計100万回唱えるという非常に過酷なもの。
空海はそれを見事に成し遂げ、その際に金星が口に飛びこむという神秘体験が付随したことにより、人間たちに信仰が広まったというわけです(金星と言うのは明けの明星のこと)。菩薩にはそれぞれ決まったご利益がありますが、虚空蔵菩薩の場合は記憶力促進です。先の求聞持法と空海の物語も関係しています。この修行、成し遂げ得たら一度読んだ経典そのほかの内容を決して忘れることがないという魔法のような修行なのです。その為、現代では受験生を含めた学生たちから人気を集めているようです。とは言っても、実際にはちゃんと理解することが大事なことですね。

こんな逸話もあります

学問云々に関しては古くから信仰されてきた虚空蔵菩薩。『今昔物語』にも登場しています。昔々、頭はいいものの女好きで遊び好きという僧侶がいました。そのため、仏門に身を置きながら知っているのは法華経のみ。拝むのも、嵯峨の法輪寺にある虚空蔵菩薩のみでした。さてそんなある日。いつものように虚空蔵菩薩様を拝んだあとでお寺の僧と話し込んだため夜になってしまいました。「参ったなあ」なんて思いながら歩いていると立派なお屋敷が。「一晩泊りたい?いいですよ」。お酒も食事もかなりの絶品。しかし何故か寝付けません。またも「参った」と思いつつ廊下に出ると、夜中に明かりが漏れている部屋を発見します。そこにはどえらい美女がひとり、読書中でした。僧侶は、酒の勢いもあって口説こうと部屋に忍び込みますが、「お坊様だからお泊めしたんですよ」と断られます。そして予想外の問い。「お経読はめますか」「今は無理です」「では暗記してそらんじることができるようになったらまた来てください」とその日は別れました。それから猛勉強の日々が続いたのち、「読経できるようになりました」と屋敷を訪れ法華経を披露しました。しかし「読める程度じゃ駄目」とまたも断られてしまいます。「本当に私が好きなら、比叡山に三年篭もってちゃんと修行してください」との言葉と美しい笑顔を胸に、ひたすら修行の日々が続きました。

そして、法輪寺にお参りしたあとで、美女のもとを訪れました。何故か几帳越しでの問答で、僧侶は美女の問いに完璧な回答を返します。僧侶は僧侶で、仏道のなかでも難問とも言える問題を次々出してくる美女の博識に驚くのでした。そして、夜。待ちに待った一夜がやってきますが、猛勉強の疲れか僧侶は眠ってしまいます。起きるとそこは家も何もない、荒れ放題の野原でした。当然美女もいません。「狐か!狸か!?」と僧侶はパニックになりつつ、法輪寺のお堂で一夜を明かすことにします。夢に小僧が現れて言うのでした。「驚かしたね。でも狐でも狸きでもない、私だよ」その正体は言うまでもなく、虚空蔵菩薩。「女好きを利用して悟らせたのだ」とようやく知った僧侶は、以降真面目な学僧となったそうです。メデタシメデタシ。気の長い計画のようですが、3年はあっという間です。

十三参り

しかし、人間は寿命は短いし、ある程度の年齢に達すると行わなければならない儀式もあります。それが十三参りです。4月13日に13歳になる少年少女が、虚空蔵菩薩から智慧を授かるための儀式です。先の法輪寺がとくに有名とされます。それは、境内で13の菓子を購入して虚空蔵菩薩様にお供えし、持ち帰って食べるというものです。

十三仏

もうひとつ、13という数字に関わっていました。それ即ち十三仏の十三番目。平安末期頃には元日から30日に至るまで、毎日念仏する仏が決まっており、虚空蔵菩薩は13日目だったとのこと。その関係で十三参りがあるのかは詳しく分かっていないそうですが、南北朝時代に、死者の供養を行う追善供養(初七日など)に十三仏(各供養日担当の仏様)が設定されて、そのラストが虚空蔵菩薩とされます。

【初七日】不動明王
【二七日】釈迦如来
【三七日】文殊菩薩
【四七日】普賢菩薩
【五七日目】地蔵菩薩
【六七日目】弥勒菩薩
【七七日】観音菩薩
【一周忌】勢至菩薩
【三回忌】阿弥陀如来
【七回忌】阿しゅく如来
【十三回忌】大日如来
【三十三回忌】虚空蔵菩薩

もともとは閻魔大王をはじめとする十王信仰が仏教入りして十三仏となったようですが、豪勢ですね。死んでからというのが残念なほどの顔ぶれです。ちなみに、なぜ虚空蔵菩薩が最後なのかというと、これまた分かっていないそうです。

山岳信仰に関して

虚空蔵菩薩は山岳信仰の対象にもなります。求聞持法絡みで山にこもる僧侶も多かったらしく、また化身とされる明けの明星もよく見えるためでしょう。

お地蔵さまと対?

お地蔵さまと対になっているとの説もあります。名前が虚空、つまり天を示すのに対し、大地と意味する地蔵。名前的には対になっていますが、もともとのインドではあまり絡みがなかったようです。しかし、場合によっては共に本尊の脇侍として共に祀られてもいます。

広隆寺の虚空蔵菩薩像。このお寺で、お地蔵さま共々阿弥陀如来の脇を固めているそうです。

まとめ

像容は多々ありますが、頭に5体の仏を頂き、片手に剣、片手に願いを叶える宝珠を持つ姿がよく知られているようです。この剣は鋭い智慧を表すもので、武具ではありません。

智慧もある意味で剣のように人を傷つけることもあることを思えば武器とも言えますが、学僧を諭した虚空蔵菩薩のごとく、根気強く辛抱強く己を磨くこと、そうして得た者も立派な武器となり得るはず。よりよい方面に知恵を使ってください。

智慧仏虚空蔵菩薩と、高僧空海の意外な関係は?

偉人の伝記を読んだり、逸話を聞いたりすると意外な事実を知ることがあります。国語学者の金田一秀穂氏の祖父、京介氏はアイヌ語研究の第一人者。当時の辞書作りの際「この人の名前を借りれば箔がつく!」と言われるほどの人物だったようです。一方で底抜けのお人好し。『一握の砂』などで知られる詩人石川啄木にお金を貸していたこともあるそうです。「働けど働けどうんぬん」の歌を遺すほど苦労してたのですね。が、借りたお金で豪遊三昧。働いても働いても楽にならないからヤケで遊んでいたのしょうけれども、「ちょっと待て」と言いたくなりますね。偉大な文学研究者と詩人の関係。黄熱病の研究の途中、その病により50代の若さで亡くなった野口英世も、小説家星新一氏の父、一氏と親交が合ったそうです。このように、意外な人たちが意外な関係があったりするものですね。そして、そうした関係は、片方が超常的な存在の場合もあります。虚空蔵菩薩と、あの高僧空海です。

虚空蔵菩薩基礎知識

もとの名はサンスクリット語のアーカーシャガルバ。「虚空の母胎」という意味ですが、ここでいう虚空とは何にもない空間にして、どこまでも無限に広がる空間。つまりは、広大な智慧、宇宙の智慧を神格化したような存在で、尽きぬほど広大な智慧を持ち、福徳を持って一切衆生を救う役話目を負っています。

基本的にあまりなじみがないかも知れません。事実虚空蔵菩薩の像は大概が脇侍としてご本尊の脇に控えています。その一方で記憶力促進の儀式、求聞持法(ぐもんじほう)のご本尊でもあります。
虚空蔵菩薩の像は、お付きみたいなものです。東大寺大仏様の脇侍を勤めてるんですよ。

空海略歴

774年、讃岐(香川県)出身。誕生日は6月15日とされていますが、これは中国の高僧の命日と同じもの。恐らくは後世の信者による、「あの方の生まれ変わりです」という一種のアピールのようなもので実際は不明です。子供時代から仏と話す夢を見たりと、なるべくしてなった僧侶感があります。15歳から学問をはじめ、18歳には大学に入学。優秀だったので、出世も期待されていました。しかし、自分がここで偉くなっても、都が栄えても、ほかの人の苦労は変わらないと貧しい人々の暮らしを楽にさせられないことに疑問を感じ退学をします。そして、ひとりの修験者と出会い、19歳にして山に入り修行を開始します。その間の詳細は不明とされていますが、24歳の頃には儒教・仏教・道教の教えを比較して「仏教は最高である」といった内容の本、『三強指帰(さんごうしいき)』まで出しました。

この間に仏道修行を極めたのでしょう。その後留学僧として唐にわたるなどし、真言密教を開いて今も尚、弘法大師として慕われているわけです。さて、重要なのは19~24歳までの修行期間。この「謎の修行期間中」に求聞持法と出会ったようなのです。

求聞持法

正式名は虚空蔵求聞持法。ご利益は記憶力の増幅。学生さんや、結婚式のスピーチなどを控えている方は、是非とも!とすがりつきたくなるようなご利益ですが、虚空蔵求聞持法は一種の修行法。奈良時代、唐から伝わったものです。各仏様には、真言(もしくは陀羅尼)と呼ばれる、教えを込めた呪文のようなものが存在します。求聞持法は、虚空蔵菩薩のお姿を思い浮かべ、あるいは絵や像を見ながら、その真言を唱えるだけ。古人曰く「継続は力なり」。そう、求聞持法のある意味恐ろしい部分は、真言をこれでもかと唱えまくることにあります。

10代でデビューしたある若手小説家は、とにかく自分を追い詰めるほどに小説を書いた挙げ句にデビューしたと言いますし、アイザック・ニュートンが万有引力に端を発する数々の科学的発見を成し遂げられたことに対し、こう言ったそうです。「いろいろ考えに考えまくったからね」。ストーブの前で考え続けた挙げ句、暑くなって使用人を呼びつけ「火、消して」なんて逸話も残っているくらいです。そう言えば、この人が科学的な発見をたくさんしたのは、24歳のときでした。横道にそれましたが、求聞持法とは本来集中力を高める修行のようで、真言自体は長くないものの、回数がえげつないほど多いんです。50~100日間にわたって計100万回の真言を唱える、というもの。100日間ぶっ続けで、です。確かに唱え続けていれば、ある意味集中力は付きそうです。ついでに根性も。兎にも角にも、ひたすら真言を唱え続けるこの修行、聞いただけでもピンとくるようなこないような、ですね。とある文献を見る限り、1日じゃ唱えきれないんじゃないかと思われるほどの修行。聞けば、「破戒僧を懲らしめる為に無理強いさせた」との逸話まであり、その際は行った半数の割合で死者が出たとか、出なかったとかささやかれています。そのくらい過酷なんですね。空海さんのごとく確固たる信念と覚悟がないと達成できないんでしょう。ちなみに、読経が終わったら最後の試練が待っています。その名も牛蘇加持法。こちらは牛蘇という、牛乳を煮詰めた固まり、一種のチーズのようなものを密教のお寺で使用する乳木(護摩焚き用の薪)でかき混ぜ、また虚空蔵菩薩の真言を読経。このとき、火か煙、気の壮が出れば、晴れて求聞持法クリア、虚空蔵菩薩と同じ無限の智慧を授かれるというのが通例です。

そして、開かれる悟り

空海のとき、これは行えませんでした。というかできなかったんじゃないかと思われる状況だった様子。空海はこのとき「山か海にいた」ようなので、充分な設備が整っていなかった可能性が高かったのです。しかし、仏様は見ていました。明けの明星が空海の口に飛び込んだのです。この求聞持法成功があったことが真言宗を広めるのに一役買ったのではないでしょうか。このことは、若い僧侶の励みにもなったはず。なぜ、明けの明星が飛び込んだから達成と見るか、と言えば、明けの明星は虚空蔵菩薩の化身だからです。もっと言えば、インド神話時代明星天子(金星の神格化)の異名を持っていたことに起因するようです。

まとめ

忙しい受験生の皆さんからすると、時間があるなら単語のひとつでも覚えたい。と思われるかも知れませんが、これはもともとが集中力を高めるための修行です。心の支えとし、自分に合った方法とペースで繰り返し行うのがいいのではないでしょうか。

モーニングスターの異名を持つ智慧の仏『虚空蔵菩薩』

「明けの明星」とも称されるモーニングスター。美しく目立つその輝きは、太古よりさまざまな神話・伝承で神、あるいは悪魔・天使などに例えられますが、実は仏様のなかにもいました。モーニングスターと例えられる方が。その名は「虚空蔵菩薩」。あの「お地蔵様」と対になる存在とも言われている方です。

どんな仏様?

「菩薩」なので修行中の身。名前の「虚空(サンスクリット語でアーカーシャ)」とは何にも妨げられることのない、広い空間のこと。言ってみれば、「宇宙のごとく広い知恵・慈悲」の仏様です。知恵を授けるのが主な功徳ですが、それだけでなく「記憶力を強める」ことにも定評があるようで、受験生にとっては強い味方。奈良時代、弘法大師こと空海が「求聞持法(ぐもんじほう)」という修行法(儀式との説もあり)を行ったことから有名になったようです。空海はとある海にほど近い洞窟で瞑想し、呪文を唱えた結果記憶力が抜群に上がったとか。そんな逸話を聞いたら信仰せざるを得ませんね。

「記憶力が上がる」求聞持法

真言を100日間ぶっ続けで100万回も唱えるのであれば、嫌でも覚えますよね。何事も地道な努力が必要、とのことまで教えてくれる仏様でもあります。「求聞持法を成し遂げたら誰でも記憶力上がる」というより、記憶力が上がる方法(繰り返してやる)を教えてくれてるんじゃないでしょうか。何にしても無理はしないようにしましょう。

戦隊特撮のごとく、5体に分裂?五大虚空蔵菩薩

虚空蔵菩薩はおひとりですが、何と5体に分離が可能で、5体に分けられている五大虚空蔵菩薩なるものが存在します。しかも、それぞれ色が違います。配色は赤・青・黄・白・黒となっており、それぞれが東・西・南・北、そして中央という配置になっています。虚空蔵菩薩の持つ知恵を5つに分けた、金剛界と呼ばれる世界の仏の化身、密教の五智如来がルーツなど諸説があるようです。五大虚空蔵菩薩像は、神護寺などのお寺で見ることができます。

何故にモーニングスター?

冒頭で「モーニングスターとも呼ばれる」と書きましたが、実際にはモーニングスターが虚空蔵菩薩の化身とされ信仰されているようです。理由は明星天子(もしくは智光天子。もとはインドにおける金星の神様でシュクラという名前)の本来の姿だからです。金星の神の姿をとる仏様ということで、明けの明星、宵の明星が虚空蔵菩薩(明星天子)の代わりのごとく崇められてきた、と言うわけです。

お地蔵さまとの関係

さて、やはり冒頭に書いた「お地蔵さまと対になる」という点。その割には(失礼ながら)お地蔵さまほど有名というわけでもなく役割も「対」とは言えません。お地蔵様の役目は観音様共々、人間界を含めた6つの世界を回って衆生を救うこと。地獄に落ちた魂や賽の河原の子どもも救済対象に入っているほど。虚空蔵菩薩はと言えば、知恵と記憶力を与えるのが役目であり、神の姿を借りることもあるなど、対局的な印象があまりないですね。しいて言えばその名前でしょうか。「地」である地蔵菩薩と、「空」を意味する虚空蔵菩薩。そういった理由からか、共に阿弥陀如来の脇侍(きょうじ。その名の通り、仏の両脇に位置する仏像)とされるお寺もあります。しかし一緒に祀られることはそうそうありません。虚空蔵菩薩の持っていたお地蔵様の「対となる要素」が別の仏様にわたり、名前だけそのまま残ったようです。どちらもありがたい「仏様」に変わりはありません。

山とも関わりが

いわゆる山岳信仰(山を信仰、崇拝する一種の自然崇拝)とも関連がありました。どうもモーニングスターの化身と称されていたことが関係しているようです。(山に登って拝んだ、ということでしょうか)今も場所によっては虚空蔵菩薩像を有する山中のお寺があるようです。

鑑賞ポイント

お寺や仏師によってその姿は微妙に、あるいは大いに異なるでしょうが、今度は鑑賞ポイントについてお話します。基本的な虚空蔵菩薩像というものはないように思われます。その名の通り、姿かたちが多種多様なので。まずは半跏像。片方だけあぐらをかいている、という弥勒菩薩で知られるあの座り方ですね。最古の虚空蔵菩薩像は額安寺のもの。奈良時代に作られたもので、「五大虚空蔵」に関連してのことか、頭上に五仏が配されているようです。

実は意外な実力者!?あの偉人もお世話になった虚空蔵菩薩とは

虚空蔵菩薩は、一般の方にはそれほどなじみのない仏様かも知れません。
確かに菩薩ではあるのですが、観音菩薩ほど有名な存在でもなければ、地蔵菩薩ほど身近な存在でもありません。
しかし、重要でない菩薩様かと言えば、そうではありません。
虚空蔵菩薩は密教との縁が深く、実は隠れた実力者です。
しかも、あの歴史的偉人もお世話になったことがあるというのですから、驚きです。

虚空蔵菩薩の基本情報

虚空蔵菩薩は、その名の通り、菩薩です。
もともとはアーカーシャガルバと呼ばれており、これは「虚空の母胎」といった意味です。
「虚」という字が入っていますが、「虚しい」といったニュアンスではなく、「虚空」という一組で「空(くう)」に近い意味を持っています。
この場合の「虚空」は、広さや大きさを表す言葉なんですね。
何が広くて大きいのかと言えば、その智慧と福徳が、です。
ですから虚空蔵菩薩とは、「とてつもなく広くて大きな智慧と福徳を持っている菩薩」という意味なんです。
かなりスケールの大きな菩薩様だということが分かりますよね。

虚空蔵菩薩の密教との縁の深さは、曼荼羅を見れば一目瞭然!?

仏教にはいろいろな系統がありますが、虚空蔵菩薩はそのなかでも、特に密教で重視されています。
これは、虚空蔵菩薩の曼陀羅のなかでの立ち位置からも明らかです。
そもそも曼荼羅とは、仏教の世界観を絵図の形で表現したものです。御仏たちが絵図の各所に配されており、密教で特に重視されています。
代表的な曼荼羅には2種類あり、それぞれ、胎蔵界曼陀羅、金剛界曼荼羅と呼ばれています。
このうち、胎蔵界曼陀羅は理の曼陀羅とも言われ、仏陀の悟りに基づく真実の理の世界を表現しています。もうひとつの金剛界曼荼羅は、悟りに基づく智慧の働きを表現しています。
そして虚空蔵菩薩は、胎蔵界曼陀羅のなかで重要な地位を占めているのです。
胎蔵界曼陀羅のなかは、いくつかのパートに分かれており、そのうちのひとつが虚空蔵院という名前になっています。場所は、曼荼羅の中央、下寄りです。
虚空蔵院という名前からお気付きになられた方も多いかと思いますが、この虚空蔵院の中心的存在が虚空蔵菩薩なのです。
虚空蔵菩薩は、この虚空蔵院の真ん中に位置し、虚空蔵院の主尊となっています。
すでに書きましたが、虚空蔵菩薩は、広大な智慧と福徳を持った菩薩。
その虚空蔵菩薩が主尊となっている虚空蔵院は、胎蔵界曼陀羅のなかで、仏教がもたらす救いには限りがないことを表しているのです。
ちなみに虚空蔵院の向かって左端には一百八臂金剛蔵菩薩が、向かって右端には千手千眼観自在菩薩が、それぞれ大きく描かれています。また、それ以外にも十波羅蜜菩薩などが小さく描かれており、虚空蔵院には合計で26尊が描かれています。

意外!あの偉人も虚空蔵菩薩の力を借りていた!!

虚空蔵菩薩に関連した代表的なエピソードとしては、弘法大師こと空海に関するものが挙げられます。
真言宗の祖としても知られる空海は、平安時代に密教を本格的に日本に持ち込んだ人物として知られています。
前出の曼陀羅も、当時の中国から日本に持ち帰ったのは、空海。
また、仏教の教えを実践すべく、治水を目的とした大規模な土木事業を手がけるなど、宗教家の枠に収まり切らない、ある意味、スーパーマン的な存在です。
その空海が修していたと言われているのが、虚空蔵求聞持法ですが、空海が修するよりも以前から日本には伝わっており、伝えたのは次項でご紹介する額安寺(かくあんじ)の第一世の住職、道慈だったとのことです。

虚空蔵菩薩の仏像としてのお姿とは?

ここまで、菩薩としての虚空蔵菩薩についてご紹介してきましたが、では仏像としてのお姿はどうなのでしょうか。
実は虚空蔵菩薩には、大きく分けて2つのタイプの仏像があります。
ひとつは、言わば、通常タイプ。ほかの仏さまの仏像と同様、普通に虚空蔵菩薩の仏像として作られたタイプです。
そして、もうひとつが、前述の虚空蔵求聞持法と関係があるタイプ。この場合には、通常タイプとは少し違ったお姿になります。
具体的には、以下にご紹介します。

・通常タイプ
一般的な虚空蔵菩薩の仏像では、左手に如意宝珠、右手には宝剣を持っています。また、頭には五智宝冠を戴いています。 しかし、この通常タイプにはさまざまなバリエーションがあり、全てがこの通りというわけではありません。

・虚空蔵求聞持法と関係があるタイプ
こちらは虚空蔵求聞持法の本尊として祀られているタイプです。このタイプでは、左手には蓮華を持ち、その上に宝珠が載っています。また、右手には宝剣を持たず、与願印という印を結んでいます。
こちらのタイプにもさまざまなバリエーションがあり、たとえば左手に何も持っていないタイプの仏像などもあります。

虚空蔵菩薩の仏像には、上記のように、大きく分けて2つのタイプがありますが、数としてはそれほど多いものではありません。
そして、実際にお目にかかれるものとなると、さらに少なくなるのが実情です。
これは、秘仏として拝観不可となっているケースが多いためです。
虚空蔵菩薩の仏像の代表的なものとしましては、奈良県大和郡山市にある額安寺の乾漆虚空蔵菩薩像があります。これは虚空蔵求聞持法と関係があるタイプの仏像で、日本最古の虚空蔵菩薩像と言われています。

如来の別の姿!?五智如来

宇宙の智慧や心理を表す虚空蔵菩薩、密教では「実は如来の化身」という説もあるようです。その名も五智如来。密教では金剛界五仏と称されます。メンバーは以下の五名。

【大日如来】
密教のトップ。王様のようなものなので、如来にも拘らず冠や装飾品を着けています。五体揃った曼荼羅では中央におられます。

【阿?如来】
大日如来のもと、怒りや邪欲を断つのが役目。東方に位置します。

【宝生如来】
「みんな絶対的価値があるよ、無駄なものなんかないよ」と説きます。独尊で祀られることはあまりありません。南方に位置します。

【無量寿如来】
阿弥陀如来の別名です。西方に位置します。

【不空成就如来】
成所作値(じょうしょさち)という、悟りの境地のひとつ。「まず実践」を神格化した仏様。北方に位置します。

これがのちに五大虚空蔵として変化し、災いを取り除いて福を得る息災増益(そくさいぞうやく)のご利益を持って、平安時代の後期から、主に真言宗で信仰されました。後々のご利益として、天変地異を起こす怨敵を除くことや安産などが挙げられます。

五智如来からの五大虚空蔵

のちに五大虚空蔵として分裂。矢針中央と、それを取り囲むように4体が東西南北に位置するというパターンです。何故か色が豊富。そして、皆動物に乗っているといます。

【法界虚空蔵】
中央で、白色。またの名を解脱虚空蔵。獅子に乗っています。

【金剛虚空蔵】
東方で、黄色。またの名を福徳虚空蔵。象に乗っています。

【宝光虚空蔵】
南方で、青色。またの名を能満虚空蔵。馬に乗っています。

【蓮華虚空蔵】
西方で、赤色。またの名を施願虚空蔵。孔雀に乗っています。

【業用虚空蔵】
北方で、黒紫色。またの名を無垢虚空蔵。金翅鳥(きんしちょう)に乗っています。

なぜ動物に乗っているのかは、それぞれの動物に意味があるからです。獅子は最強ということで聖なる獣。象は主に白い象として、さまざまな説話に登場。ことに、お釈迦様の御降誕前、生母マヤ夫人の夢に現れたのが白い象であるなど、これまた聖獣。馬も古くから聖獣として扱われましたし、孔雀、金翅鳥は毒を持った蛇や龍を食べる聖鳥です。金翅鳥には迦楼羅という別名が存在します。八部衆の一員ですね。真理・智慧を司る仏様たちの乗る動物は聖獣・聖鳥なのです。

仏教版との見分け方

「密教版と仏教版で違いがあるのか」と言われれば、仏教版は右手に剣を持っていることくらいでしょうか。勿論、像容は多々ありますが、求聞持法のご本尊は「宝珠と与願印(差し伸べるような手つき)、蓮華座に座っている」、5体いるのが基本。仏教版は必ずしも剣を持つわけではなく、花を持っていることもあります。

まとめ

密教においては、胎蔵曼荼羅の虚空蔵院の主役状態であったり、結構重要な扱いをされる虚空蔵菩薩。仏教を突き詰めた密教で、これだけ重要視されるということは、人間が智慧の重要性に気付いた結果かもしれません。今ほど科学が発達していなくとも、学がないとされても、古人の知恵というものもありますし、科学も19~20世紀、そして21世紀へと急速に進展しました。虚空蔵菩薩様の御利益とも言える智慧の力は、今後どのように発展していくのでしょうか?

虚空蔵菩薩とは何ぞや

いっときは地蔵菩薩と対にされていましたが、今では単体、ソロ活動中です。ときには才能あれど努力をしない学僧にやる気を出させる為に美女に化け、ときには記憶力を高めるための求聞持法(ぐもんじほう)なる修行法のご本尊として機能するなど、知力の面では頼もしさ抜群の仏様。人間も相応の知恵を持って考え抜いた挙げ句、仏教という宗教にさまざまな宗派を生み出し、枝分かれさせることとなります。そして、「仏教」とは毛色の違うイメージを持たせるものも生まれました。「密教」です。

密教とは何ぞや

何だか怖そうな響きを持つ密教ですが、厳密に言えば、密教も仏教の一体系。発祥地、インドで既に大乗仏教(「出家しなくてもいいよ、仏様はたくさんいるよ」)という教え)、小乗仏教(「出家しなきゃダメ。お釈迦様以外に仏様はいない」という教え)と二極化した仏教から、更に枝分かれしたのが密教。日本以外にも、中国・チベット・ネパールなどで信仰されています。大乗仏教を突き詰めた結果、「仏様の教えというのは、深くて、凡夫には理解できません」とし、秘密に説かれたもの。またの名を衆生秘密と言います。きちんと理解していないと大変なことになるものも教えのなかには入っているため、ちゃんと行を修めた者にだけ、口伝で伝えられてきました。密教の教えに基づいて作られた仏像も多数存在します。そのなかから、虚空蔵菩薩をご紹介します。

日本で密教を広めた虚空蔵菩薩

ある意味、虚空蔵菩薩は日本で密教を広めるきっかけになったとも言えます。そこには、最初に述べた求聞持法が関係していました。その半面、仏教関連の修行のなかでもかなりスパルタの部類に入るんじゃないかと思われる、かなり厳しいもので、虚空蔵菩薩の真言(各仏の呪文。そんなに長くない)を唱えるだけなのですが、罰としてこれをやらされた破戒僧のうち、5割ほどが亡くなったそうです。勿論、ちゃんと成し遂げた立派な僧侶もいます。その中にいたのが空海。空海は留学僧として唐にわたり(途中で嵐に遭いますが)、密教と出会い密教を日本に広め根付かせました。そしてさまざまな仏像の「密教バージョン」が作られました。

ご本尊バージョン

仏教ではときに別のご本尊の脇侍として脇にたたずむこともありますが、密教での虚空蔵菩薩は求聞持法のご本尊として祀られることもあります。その場合は蓮華座と呼ばれる台座に座り、訪韓に5体の仏を配し、左手に蓮華に載った状態の宝珠を乗せています。右手は願いを聞き入れるという与願印。宝珠も願いを聞く球です。
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