仏像

悟りとは、輪廻の輪を断ち切って天道に足を踏み入れることにあり

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1973年の日本映画に「日本妖怪伝サトリ」というものがありました。人が頭で考えたことを次々に言い当てる民話の妖怪・サトリが登場する映画です。また、コミック・アニメ「うしおととら」にも、人の心が読める妖怪サトリが登場しています。 その応用でしょうか、「サトラレ」というコミックが人気を呼び、2001年には映画化もされました。こちらは「先天性R型脳梁変性症」という脳に関する謎の奇病であり、口に出さずとも自分の考えが周囲の人にサトラレてしまうという能力の持ち主のことでした。 いずれも仏教の「悟り」という言葉からの発想で生まれた物語です。 悟りという言葉で辞書を引くと、理解すること・迷いがなくなることと書いてありますが、ここでは仏教で言うところの「悟り」についてお話します。

1.悟りと天道

仏教用語で、六道輪廻(りくどうりんね)という言葉があります。六道とは6つの道、つまり地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道のことです。

地獄道は罪を犯したものが、償うためにあらゆる責め苦を負う道。餓鬼道は美食に酔い、贅沢三昧を繰り返した人が落ちる道。畜生道は人のものを盗んだり、動物をむやみに傷つけたりしたものが落ちる道。修羅道は他人と争ってばかりいた人が落ちる道、人間道は四苦(生老病死苦)八苦(愛別離苦・怨憎会苦・五蘊盛苦・求不得苦)に苦しむ今の私たちの道。そして天道はそれらの苦から完全に逃れたものだけが行ける道です。

比喩的な意味では、私たちはこれらを日常的に行き来しています。夫婦間や知人と喧嘩をすれば修羅道に、自分が事故に遭って大怪我をすれば地獄道でしょう。家に泥棒が入り大切なものがたくさん盗まれたら、きっとこう言いますよね、「ちっくしょーー!!」。はいそうです。だから畜生道というのです。ウソですけどうまいこと言ったつもりです。

そうやって日々、悲喜こもごもを味わって生きているのが人という生き物です。するとどうしたら一番幸せな天道に行けるのか。そしてそこにい続けられるのか。という疑問が涌いてきます。
どんなに出世しても、高額宝くじに当たろうとも、結婚しても子供ができても、それは次の幸せを約束はしてくれません。ほんの一時天道を味わってもそれが永続しません。輪廻してしまうからです。

いや、俺は宝くじに当たりさえすれば幸せになれるぞ、と言う人はいることでしょう。それならば、と仏は問います。あなたは病気にはならないのですか、災害には遭わないのですか、そのお金はなくならないのですか、家族は誰も死なないのですか、あなたは死なないのですか、と。
生きている限り、その幸福が長く続かないことは経験則として誰もが知っています。

2.仏陀の誕生

仏教の思想では、人に限らず生き物はすべて生まれ変わる(転生する)という宿命を持っているとされます。そしてどこに転生するのかは、生前になした行動で決まります。善行を積めばより上位の境界となってこの世に生まれますが、悪行三昧な人生を送れば修羅道や畜生道に、最悪は地獄行きです。地獄には272も種類がありますがその話は鬼灯様にまかせておきます。

そうやって永遠に輪廻を繰り返す宿命の糸を、断ち切る方法があることに最初に気づいたのが釈迦族の王・シッダルタ(仏陀)でした。シッダルタは7年にも及ぶ苦行によってやせ細り命を落としかけましたが、それを救ったのがスジャータ姫です。シッダルタが彼女の差し出した乳粥(今で言うオートミールの仲間です)を食べたとき、苦行は終わりを告げます。
ちなみに日本初のポーション型珈琲フレッシュの名前は、この姫の名前からとったものです。豆知識です。
乳粥で一命を取り留めたシッダルタは、苦行だけではダメだと思い、その後深い瞑想に入ります。そして49日の瞑想を経てようやく悟りを開きました。この話の詳細は省きますが、それでようやく仏陀(悟った人)となったのです。

悟りとは、この輪廻の輪を断ち切って天道に足を踏み入れることです。ここまでくれば、もう落ちることはありません。畜生道や地獄道はもちろん、人間にも生まれてくることもありません。天界でアニメみながら悠々自適に。いやそんなことはありません。そういう世俗な欲望はすべて雲散霧消し欲する気持ちさえなくなった状態になるのです。
なにも楽しみはないのかと言われそうですが、もちろんあります。まだ悟っていない人を救済し天道に誘うことです。これが無情の楽しみとなるのです。
え? 連続ドラマの続きが見られないのはいやだ? それは煩悩のひとつで無色貪(精神的欲望)です。死んだらどのみち見られないのです。死ななくても目が見えなくなったり、病気で入院したり、お金がなくなっても見られなくなります。

3.四苦八苦

人は、どんなにお金があっても、どんなに良い友人に恵まれても、どんな可愛い彼女がいても、絶対に逃れることのない苦しみがストーカーのようにつきまといます。四苦八苦と呼ばれるものです。その最大のものが4つあります。生きる苦しみ、老いの苦しみ、病の苦しみ、死の苦しみ。そしてどうしても逃れることのできない苦しみは、さらにもう4つあります。

ひとつが求不得苦(ぐふとっく)です。求めても得られない苦しみです。150kmの球を投げたくても、そんな人はわずかしかいません。夜更かしをしてゲームをしたくても次の日は大切な用事があればできません。猫が好きで仕方ないのに猫アレルギーだったり、好きな人がいるのにその人はすでに結婚していたり。それはどうしようもないことです。

続いて愛別離苦(あいべつりく)があります。愛する人と別れる苦しみです。夫婦はほぼ必ずどちらかが先に亡くなります。親を亡くす子、子を亡くす親もいます。付き合っていた相手が引っ越した、転校した、実は男の娘だった、浮気された。そのような苦しみです。

3つ目は五蘊盛苦(ごうんじょうく)です。五蘊とは人を構成する五つの要素(色、受、想、行、識)のことで、これが意のままにならない苦しみです。明日提出なのにいくら考えても解けない数学の宿題、階段を登るたびに痛む膝、誰にも勝てない遅い足、自分からは誰にも話しかけられない引っ込み思案。そのような苦しみです。

最後は怨憎会苦(おんぞうえく)です。憎しみ合う相手と出会ってしまう苦しみです。恋のライバル、人の陰口ばかりを言って回る奴、すぐ暴力を振るう彼氏、嫌みばかり言う上司、言うことを全然聞かない子供、犯罪者。そのような人と、出会わない人はいません。

そこから逃れるただひとつの方法が解脱であり、それを実現した人のことを「悟った人」というわけです。

4.今より少し、悟りに近づくために

悟りへの道筋を仏陀は示しました。最初のひとりには仏陀という天才が必要でしたが、仏陀の示した道跡をたどれば良いだけの私たちには、そこまでの苦労はいりません。とはいえ誰にでもできることでもありません。それほど深い業の中に私たちはいるのです。

それでも、人間界に生まれた私たちは他の4道に比べればまだずいぶんとマシなほうですが、そうでない人もいます。もっとマシな人生を送りたいのであれば、厳しい修行でなくてもできることがあります。自分の因(いん)を良くすることです。

因縁果報。因果の法と言われます。仏教では物事はすべてこの順番で起こると教えます。
人は「因」という原因を持っており、同じような因を持つ人とは「縁」ができます。その人との付き合いでなんらかの結「果」が生じ、そこから「報」いを受ける、という理屈です。 例えば因を100点満点での点数に例えてみましょう。あなたの点数が70点であるのなら、あなたと縁のできる人はやはり70点前後の人です。40点なら40点前後。90点なら90点前後。そのような人としか縁ができません。どんな素敵な人が現れても、あなたが50点でその人が90点であるなら縁は結ばれません。
仏教ではこうも教えます。「因さえ良ければ石ころひとつが良縁を呼ぶ」と。なにもイチゴジャムを塗ったパンをくわえて走ることはありません。良い因(点数)を持っていれば、蹴飛ばした石ころだって良いフラグを立ててくれるのです。

悟りに達するのは無理だとしても、せめてこの点数だけでも高くして、もっといい人生を送りたいとは思いませんか。さらに次の人生ではもうちょっといい境界に生まれたいとは思いませんか。そのような欲望なら仏教は否定しません。そのために、自分の点数を上げるような行動をしたいものです。

車の運転をしている自分を想像してみてください。割り込もうとする車は怒らずに入れてあげましょう。道は率先して譲りましょう。一旦停止は必ず守りましょう。交通弱者保護に気を使いましょう。車間距離は十分とり、横断歩道で歩行者を見つけたら必ず止まりましょう。
そのような行動をとるたびに、因をよくする点数を1点ずつもらえると考えるのです。

するとほら、なんということでしょう。気がついたらあなたは安全運転者となっています。事故で無駄な出費をすることもなく、人を傷つけることも家族に無駄な心配かけることもなく、そういう高い境界の人になっているではありませんか。これで悟りにほんの少し近づきましたね。
逆に点数を下げることはこのようなことです。人の悪口・陰口を言う。さらにそれを広める、告げ口をする。口汚く罵る。人を陥れる、貶める、いじめる、人が嫌がることをする、自分を守るためにウソをつく、生き物を無駄に殺す、怒り心頭になる、不平不満愚痴を言う。法律には触れなくても、これらはものすごく点数を下げる行為です。地獄に行きたければそのような行動を常日頃からとれば良いのです。こちらは簡単ですね。
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