うどん

地方うどん探訪 VOL.1 : 伊勢うどん 吉田うどん 武蔵野うどん

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伊勢うどん

三重県伊勢市を中心に食べられる伊勢うどんは、江戸時代の頃から伊勢神宮に参拝に訪れる参拝客たちの胃袋を満たしてきました。麺の特長は、目を見張るほどの太さにあり、私たちが普段食べている一般的なうどんとはかけ離れた、コシとは無縁のふっくらモチモチした食感を持ちます。また、具は薬味の刻みネギ程度で、あまり載せないことも特徴。モチモチの太麺と甘口の濃厚タレのハーモニーをシンプルに楽しむ。それが、伊勢うどんをいただく時のお約束ですね。

伊勢うどんの最大の特長のひとつである麺の太さは、讃岐うどんの2~3倍、稲庭うどんの10倍程。その太さ故に麺の茹で時間は大変長く、通常のうどんが約15分程なのに対して、伊勢うどんの場合は何と1時間弱(!)も茹でるそうです。

時間をかけてゆっくり煮ることで柔らかくなった太麺は、麺の理想とされるコシとは無縁ながら、伊勢うどん独自の食感を確立しています。食感は柔らかく、ふっくらモチモチ。そのモチモチ極太麺に、黒くて濃厚なタレを少量絡めていただきます。たまり醤油を基にカツオやサバ、イリコ、昆布などの魚介でとったダシをブレンドしたタレは、見た目こそ辛そうですが、味わってみると甘口。徹底的にコシをなくしたモチモチの極太麺と濃厚タレが作り出すハーモニーは、麺の強いコシとさっぱり汁の讃岐うどんと対照的です。

なお、伊勢うどんの名称は、意外な人が名付け親と言われています。
昭和40年代にエッセイシストでタレントの永六輔さんが、伊勢でこのうどんを初めて食べた時に「これは伊勢うどん!」と言ったのがはじまりで、ラジオやエッセイなどでも紹介したことで、この名称が広まったとか。

吉田うどん

柔らかい麺の伊勢うどんとは対照的に、山梨県富士吉田市や郡内地域で広く食べられている吉田うどんは、「日本一固いうどん」と称される程、麺が固くコシが強いことで有名です。普通のうどんは、上顎や舌、唇、箸ではさんで千切って食べるわけですが、吉田うどんは、歯でしっかり噛まなければ切れない。吉田うどんを食べる時は、すするのではなく、噛む。とにかく噛むことに徹することが不可欠です。

そんな固麺の吉田うどんの汁に使われるのは、煮干や椎茸の出汁。作り手によって多少異なりますが、醤油ベースか味噌ベース(または、醤油と味噌のブレンド)の温かいかけ汁をかけて食べたりすることが多いようですが、最近では県外から訪れるお客さんの好みに合わせて鰹節や昆布の味もあるそうです。また、具には、細切りや輪切りのニンジンやシイタケがよく使われる他、付け合せとして、茹でキャベツの細切りや油揚げなど、またトッピングにきんぴらごぼうや馬肉を使うこともあるそうです。

そして、もうひとつ、吉田うどんの特長として挙げられるものに、薬味として使われる「すりだね」という“辛味”があります。これは、唐辛子をベースにして醤油やゴマ、山椒など、お店によって異なる隠し味を入れて、油で炒めたもの。

吉田うどんは、2007年に農林水産省が各地に伝わる故郷の味の中から選定した「農山漁村の郷土料理百選」のひとつに選ばれています。

武蔵野うどん

埼玉県の武蔵野うどんは、武蔵野台地の郷土料理として地元で親しまれてきた料理です。多摩地域から埼玉県入間郡にまたがる武蔵野台地は、関東ローム層に覆われており、浸水量が降雨量を上回るのが通常であり、水田を使用する米より良質な小麦の生産が盛んでした。

こうしたことから、うどんが多く食べられなど小麦主食の文化地帯となっており、各家庭でうどんを打つ習慣があった。そんなことから、昔、この地域では、うどんが打てなければ、嫁に行くことができなかったとさえ言われていたそうです。それだけ、うどんは、武蔵野台地に密着した料理だったわけです。

武蔵野うどんに使用される小麦粉は、武蔵野台地で生産されたものを使用する事が原則なのですが、武蔵野うどんを特徴付けているのが、この麺の色。一般的なうどんよりも太い麺は、やや茶色がかっていて、加水率が低いのです。コシがかなり強いので、口に含んだ時の食感はゴツゴツしています。一般的なうどんの食感とは異なり、ツルツルしていません。

人気の食べ方は、麺をざるに盛った「ざるうどん」と「もりうどん」。
麺のつけ汁は、カツオダシを主材とした、どっしり感のある味わい。そのつけ汁に、具としてシイタケやゴマなどを混ぜたものを、温かいまま茶碗ないしそれに近い大きさの器に盛る。ねぎや油揚げなどの薬味を好みで混ぜ、汁をうどんにからませて食べるのが、武蔵野流です。

ちなみに、地元・武蔵野台地では、江戸時代の頃、うどんはハレの日の行事食としても出され、現在でも旧家では冠婚葬祭などのお祝い事や親戚縁者の集まりにはうどんを出す事が多いとか。うどんがお祝い事に出されるのは、“良いことが細く長く続くように”という願いが込められているからそうです。
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