世界史

「偉大な英国人」に選ばれたシェイクスピアの偉業

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イギリスの偉大な英文作家、ウィリアム・シェイクスピア

ウィリアム・シェイクスピアは、16世紀後半から17世紀初頭に生きたイギリスを代表する演劇作家であり、誰しもその名を聞いたことがあるかと思います。
イギリス放送局BBCが2002年に実施した「100人の偉大なイギリス人」という投票企画においても、シェイクスピアが堂々の5位にランクインするほどです。
シェイクスピアは400年も昔に生きた人物ですが、なぜこれほどまでに、現代の私たちにも影響を及ぼしているのでしょうか。
そこで、今回はシェイクスピアが歴史的に成し遂げた偉業についてお話します。

シェイクスピアが生きた時代

シェイクスピアの生きた時代は、エリザベス一世による治世のもとで、ルネサンスの影響を受け、演劇文化は花開いていた時期でもありました。
ルネサンスとは、もともと14世紀イタリアで始まったローマ・ギリシア古典の文芸再興を意味しています。
それまで中世キリスト教の世界観に覆われていたヨーロッパでしたが、十字軍遠征やイスラム世界との接触により、より合理的で客観的な世界観への把握へと人々の目が啓かれた時代でした。
キリスト教以前の人間や世界のあり方を改めて評価しようとした文化人たちは、ローマ・ギリシア時代の古典文化を掘り起こし、キリスト教の世界観や規範に縛られない、人間本来のあり方を芸術のなかで見出そうとしました。
こうしたルネサンス期の文芸復興はイギリスにも波及し、エリザベス一世の治世下で、とくに女王の好んだ演劇において栄えます。
シェイクスピアもルネサンス的な世界観を投影した演劇作品を生み出し、当時の常識を覆す斬新な演出方法において話題をさらっていました。

シェイクスピアの凄さは徹底した人間の劇的な心理描写にある

シェイクスピアの偉業は、鋭い人間観察によって、人の内面、特に苦悩や葛藤といった感情を表現した点にあります。
実はシェイクスピアが作った作品のストーリーは、すべてが彼のオリジナルというわけではありません。
すでに元となる話が残っており、それをベースに作り上げられたものです。
北欧を舞台とする『ハムレット』はまさにその典型であり、北欧神話上の伝説の人物アムレートをモデルとしています。
アムレートの話は12世紀に書かれたデンマーク王家の歴史書『デンマーク人の事績』に登場します。
『デンマーク人の事績』において、アムレートは、デンマーク王の娘と代官との間に生まれました。しかしそれをねたんだ弟がアムレートの父親を殺したことで、アムレートは叔父を討つ勇敢な戦士として描かれています。
しかし、『デンマーク人の事績』はデンマーク王家の歴史を書いたものになりますので、人物の心理描写について深く掘り下げられることはありませんでした。
これに対して、シェイクスピアは、ハムレットをデンマーク王の息子という設定にして、父親であるデンマーク王を毒殺した叔父に復讐をするのか、するのであればどのように復讐するか、さまざまな感情が渦巻く心情を描写しました。
中世から続く祝祭的な行事としての宗教劇や道徳劇であったものが、ルネサンスによって人間、特に人間の心理に描写を当てた「劇的(ドラマティック)」な演劇へと変化する過渡期であったのです。

当時の世相を鋭く作品に反映

そして、シェイクスピアの偉大な点は、人間の内面を克明に描いただけではなく、当時の時代の変化を敏感に読み取り作品に反映したことです。
例えば『リア王』は、年老いた国王リアが娘3人に国を譲渡しようとしたところ、長女ゴネリルと次女リーガンの巧みな甘言によって、実直な末娘コーディリアを勘当してしまいます。
だまされているとは知らないリア王は、王座を退いた後長女と次女を頼りますが、二人に裏切られ荒野をさまよい、次第に狂気をはらんでいきます。
作品のなかで、リア王は絶対的な権力者としての態度を終始貫きますが、長女と次女はもはや年老いた王をぞんざいに扱います。
荒野をさまよっていたところを末娘に助けられ、忠臣とともに長女・次女に戦いを挑みますが、敗れてしまいます。
作品には、リア王が体現する封建社会の秩序が、到来しつつある近代の合理的で個人主義的な価値観へと社会が変わりつつあった世相が反映されています。
『リア王』に限らず、シェイクスピアの作品、特に悲劇には、当時の社会、価値観の移り変わりが反映されており、彼の卓越した観察能力を際立たせています。

まとめ

このように、シェイクスピアは時代の雰囲気、変化を読み取り、鋭い人間観察、心理描写と合わせて、後世に残る傑作を数多く残しました。
シェイクスピアの卓越した人間描写、社会描写は、時代を超えても私たちの心をうつ作品であり続けます。
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