世界史

産業革命と時間の意外な関係。「時」と「時間」の概念のはじまり

関連キーワード

産業革命は、人類の生活を大きく変えました。それまで人力によって農業や手工業を営んでいた人類は、ジェームズ・ワットの蒸気機関車や種々の紡績機の発明などに代表される機械の導入によって高い生産性を獲得し、人口も飛躍的に増加します。生活面においては、それまでの家族単位での労働という、それまでのあり方とは変わって、工場での労働という形態が社会に定着していきました。一方で、急激な人口増加や工業化は、都市の生活環境の悪化や、子供や女性の労働、長時間労働、疫病の蔓延などの問題を生んだことはご存知の通り。また、機械や工場はそれまでの社会構造を激変させ、機械によって職を奪われた職人たちのラッダイト運動のような抵抗運動も起こりました。  このように産業革命が世界史に与えたインパクトは、まさしく枚挙にいとまがないですが、産業革命と時間の間にも面白い関係があります。現代はとかく時間に追われがちな時勢ですが、その「時間」のルーツの一端は産業革命にまで辿ることができます。

時間と産業革命

 産業革命が、生活における時間の意味を変えたことはもちろんですが、逆に時間が産業革命の起因の一つになった、という面もあります。  フランス、ドイツ、アメリカなど他の国家に先立って、18世紀後半、世界で最初に産業革命が始まったのがイギリスでした。産業革命がなぜイギリスにおいて始まったのか、色々な理由がありますが、やはり、イギリスが海上覇権を握り、広大な植民地をバックにした三角貿易によって、資金だけではなく産業の原料供給地を抑えていたことが産業革命の大きな背景であると言えるでしょう。そしてイギリスが広大な植民地を得ることになった原因は「大航海時代」にあります。  実はイギリスは、大航海時代において後手を引きました。大航海時代の幕開けを切ったのはスペイン、ポルトガルです。15世紀の終わりのコロンブスやバルトロメウ・ディアス、ヴァスコ・ダ・ガマ、16世紀の初めのマゼラン、コルテス、ピサロはいずれもスペイン、ポルトガルの探検家です。17世紀になると、オランダと時期を同じくしてイギリスも大航海時代に入ります。そしてイギリスはインドの東インド会社を拠点にフランスとの競争に勝ち、三角貿易を実現することとなり、この三角貿易によってもたらされる綿花が、やがて産業革命の基盤となるのです。  さて、こうした大航海時代においては正確な時間が重要な意味を持つようになりました。どういうことかというと、海上で経度を計るための方法として、時計の時刻と太陽の位置関係を用いる方法があり、そのためには揺れる船上においても正確な時刻を示す時計(クロノメーター)が必要となったのです。そして、そうした優れたクロノメーターを開発したのが、イギリス人のジョン・ハリスンでした。彼の発明した正確なクロノメーターは、ジェームズ・クックらの航海を助け、イギリスの海上進出に貢献し、イギリスの海上覇権の獲得の一助となったのです。

分針が二本ある時計 ?鉄道と標準時?

時間を計る、という行為は産業革命以前にも存在していました。
古くから人類は日時計や、ろうそくの燃え方や砂の落ち方(砂時計)を見ることでだいたいの時間を計っていました。農業や畜産が主体となる生活形態においては、誰かに仕事時間を決められることもなく、したがって科学者を除いては、時間に生活が支配されるということは基本的にはなく、かなりアバウトな時間感覚を持って暮らしていました。
例外的には、教会での礼拝がはじまる時間が重要な意味を持ちましたが、それも教会の鐘によって地域的に時間が共有されるのみで、やはり多くの人は、広い範囲で適用される「標準時」といったものとは無縁の生活を送っていたことでしょう。

しかし、産業革命を経て規則的に動く機械や、工場が生活に入ってくると、集団のなかで時間を共有し、それに従って動く必要が出てきます。このことを象徴的に示すのが「グリニッジ天文台の時計」のエピソードです。

1792年以降、イギリスでは地方によって異なるLocal Timeが定められていました。
当初は大きな問題のなかったLocal Timeでしたが、19世紀になり、産業革命によって鉄道や電信が発達すると、地域間の時間の齟齬は不便をきたすようになりました。そしてイギリスの鉄道会社は、標準時の導入をすすめ、1847年には鉄道の標準時としてグリニッジ標準時(GMT)を使うようになりました。
しかし導入後しばらくは、GMTとLocal Timeの間で混乱があり、たとえばブリストルには分針を二つ持つ時計が出現しました。このような混乱はありましたが、しだいに各都市はLocal TimeからGMTへと以降していきました。

こうして産業革命をきっかけにイギリスにおける時間の統一が進んでいったのです。
  • Facebook
  • Twitter
  • hatena

    ▲ページトップ